同性愛は「治療」の対象ではない

同性愛治療。日本ではさほど馴染みのない言葉だが、西洋では19世紀から行われている。米国では50~60年代以降キリスト教保守団体による「同性愛治療」が大々的に行われるようになった。

しかし、「同性愛は治療の対象ではない」という認識は世界の精神医学界の主流となっている。

かつては世界的に同性愛は精神病とされていたが、1970年代以降その規定を廃止する国が相次いでいる。WHOの国際疾病分類(ICD)からは1990年に同性愛の項目が廃止された。

さらに1993年にWHOは「同性愛はいかなる意味でも治療の対象にならない」と宣言している。日本でも厚生省が1994年、日本精神神経学会が翌年にWHOの見解を尊重すると表明している。

米ニュージャージー州、カリフォルニア州、ワシントンDC、ブラジルでは「同性愛治療」と称される医療行為を州法で禁止している。

また、ニューヨーク州、マサチューセッツ州、ペンシルバニア州、オハイオ州、ワシントン州でも同様の法律の導入が進められている。

また、地中海に浮かぶ島国、マルタでも、同性愛治療の禁止法制定に向けた動きが活発化しており、制定されれば欧州で初となる。

キリスト教「同性愛を『治療』することが人権擁護」

しかし、保守プロテスタントが性的少数者に対して差別的な反対運動を繰り広げている韓国では、世界の流れに反して、同性愛治療が広く行われようとしている。

韓国のキリスト教保守プロテスタント系の各団体が、今年3月19日に「脱同性愛人権フォーラム」を開催した。ところが、人権を掲げつつも内容が人権に反するものだとして強い反発を招いた。さらにこのイベントが行われた場所が国家人権委員会だったことで、政府に対しても批判の声が高まった。

ソウルクィアパレードの会場入口に掲げられたキリスト教保守団体「ホーリーライフ」の横断幕。「同性愛者として生きるよりも克服する方がよっぽど簡単」と書かれている。(画像:読者提供)
ソウルクィアパレードの会場入口に掲げられたキリスト教保守団体「ホーリーライフ」の横断幕。「同性愛者として生きるよりも克服する方がよっぽど簡単」と書かれている。(画像:読者提供)

フォーラムに参加した「中毒治癒相談センター・ホーリーライフ」代表のイ・ヨナ牧師は「同性愛者よりさらなるマイノリティである脱同性愛者(彼らが同性愛をやめたとする人々)に対する(国家人権委による)人権侵害調査、救済、人権侵害の実態調査や教育、広報が行われていないことは厳然たる差別」と主張した。

また、大韓神経精神医学会元会長で延世大学医学部のミン・ソンギル教授は「同性愛者を『治療』した事例は多数報告されている」「同性愛者本人が望むなら、医療保険で精神科医師の助言を受けられる」「必ずしも治療ではなくても、本人の理性をもって努力すれば同性愛者はいくらでも異性愛者になれる」などと張した。

さらにフォーラムには同性愛を「克服」したとする女性が登場し「同性愛は生まれつきで治らないものだと思っていたが、キリスト教を信じるようになってからはこれは先天的なものではなく単純に人間の罪に過ぎない」と語った。フォーラムでは「同性愛から脱した人々は皆同性愛は先天的なものではなく治療可能なものだ、同性愛者たちが一日も早く同性愛から抜け出せるように助けることこそが人権擁護だ」などのことが語られた。

日本の在特会が「我々こそ被害者」「在日は日本人差別はやめろ」などと語るのと、よく似ていると言えよう。

リベラル派「人権委で反人権イベント開催」批判

これに対して韓国日報、京郷新聞、ハンギョレ新聞など中道、リベラル、左派系の新聞は「国家人権委員会の施設内で人権に反するフォーラムの開催を許していいのか」と批判する記事を掲載した。

民主社会のための弁護士会は次のような声明を出してフォーラムの主催者とその場所を提供した国家人権委員会を批判した。

「『同性愛転換治療』は医療現場で禁止されている人権侵害行為であり、転換や矯正などで性的指向が簡単に変えられるかのごとく誤った情報を流すことは同性愛に対する誤った認識を人々に植え付けてしまう」「このような『治療』は同性愛者自身の自己嫌悪を強めてうつ病、不安障害などを招く危険性が高い。性的マイノリティの人権を尊重すべき施設である国家人権委員会はなぜ反同性愛的人権侵害行事を開いたのか」

世論の反発の高まりなど気にも留めないのか、保守プロテスタント団体は、5月にも国会議員会館で「脱同性愛セミナー」を開催した。また、今月7日から17日まで、米国ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルスで「脱同性愛人権国際キャンペーン」を開催している。

韓国のキリスト教保守団体の「同性愛治療」行為について日本の男性同性愛者は次のように厳しく非難した。

「今年3月に東京の渋谷で開かれた頑張れ日本の反同性愛街宣では、反対するカウンターの人々に対して『私たちにも同性愛者の友達がいるがお前らとは違う』などと語っていたが、頑張れ日本も韓国のキリスト教も『お前らのためだ』と自分たちの価値観を押し付けて性的マイノリティを苦しめているだけだ」

「ホモフォビア(同性愛嫌悪)は治療できる」とキリスト教保守をパロディしたプラカードをかかげる人(画像:読者提供)
昨年のソウルクィアパレードで「ホモフォビア(同性愛嫌悪)は治療できる」とキリスト教保守をパロディしたプラカードをかかげる人(画像:読者提供)

「『私には黒人の友達がいるから、私は差別主義者ではない』というのは米国では差別主義者の言い訳として有名だが、頑張れ日本も韓国のキリスト教も米国の差別主義者と全く同じレトリックを利用している」

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