しかし2008年6月、米連邦検察当局がスイス最大手UBSの元行員を、米国人の脱税を幇助したとして起訴。それと関連して52000口座の情報開示をUBSに要求した。UBS側は「銀行秘密法に抵触する」として抵抗する姿勢を示したが、米国内での営業資格はく奪を突きつけられて陥落。2度にわたり、計7000人分の顧客情報を米国に提供して和解した。
司法当局をはじめいかなる権力にも顧客情報の強制的な閲覧を禁じてきたスイスの銀行秘密法に、ついに穴が開いたわけだ。
もっとも正恩にとって、秘密資金の隠し場所がまったくなくなってしまったわけではない。ロシアや中国ならば、米国の要求をはねつけてはくれる。しかしそうなると、今度はこの両国の顔色をうかがわねばならなくなる。
果たして正恩は、父親の秘密資金を引き継ぐことができたのだろうか。
(取材・文/ジャーナリスト 三城隆)