在日本朝鮮総連合会(総連)中央本部の土地・建物が、競売で落札した香川県高松市の不動産会社マルナカホールディングスから、山形県酒田市のグリーンフォーリストに44億円で転売されるニュースが話題を呼んでいる。しかしマスコミ各社の報道に、総連本部ビルがいったいどういうもので、それが転売されることにどのような意味があるのかを解説したものは、あまり見られない。ここでは、総連発行の資料や総連関係者の証言をもとに、総連本部ビルの知られざる歴史と実態を解説する。(1月31日更新)

(総連本部とはいったい何なのか-中-からつづく)

強制捜査から競売へ

総連は結成以来、一貫して公安の監視対象だったが、本部が警察の捜索を受けたのは2001年11月29日が初めてだった。警視庁捜査2課は同年10月から、在日朝鮮人系の朝銀東京信用組合を舞台にした資金の不正流用事件の捜査に着手。実質的な上部団体である総連幹部の関与が疑われたことから、富士見町の本部を家宅捜索する運びとなった。

朝鮮総連に関する書籍
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同事件では、総連本部の元財政局長、朝銀東京の元理事長らが逮捕され、有罪判決を受けている。

その後、総連本部の土地建物は、整理回収機構(RCC)によって競売に付される流れをたどる。発端は、破綻した朝銀の1兆5千億円を越える不良債権だ。それを補うために約1兆4千億円の公的資金が投入された。

朝銀の不良債権を引き継いだRCCは、そのうち約627億円が総連が絡んだ不正融資だと主張。総連側が在日の商工人などの名義を使用するなどして、迂回融資を受けていたというものだ。この主張が裁判で認められ、RCCの債権回収のために総連の資産である本部建物と土地が売られたのだ。

当事者の関心は薄いのに……

これに対し、「総連本部は在日朝鮮人コミュニティーの象徴であり、尊重すべき」との声が、北朝鮮や総連ばかりか、日本の一部メディアからも出ている。しかし、当の在日朝鮮人からは、かなり違ったニュアンスの話も聞こえる。総連の元幹部は言う。

「一般の総連会員の、中央本部に対する関心は薄いですね。マスコミではよく、『総連のシンボル消滅か』なんて書いているけど、末端の会員にとってあれほど縁の薄い施設もない。本国に親族訪問する際の手続きは市区町村に置かれた支部でやるし、もろもろのイベント会場も支部か朝鮮学校、あるいはせいぜい都道府県本部。一生に一度も中央本部に足を運ばないという人の方が圧倒的に多い。

あの会館の組織行政上の機能は、末端からの要望を受けて改革路線を進もうとする地方や地域の幹部を呼びつけて、つるし上げにしてヘコませることぐらい。

地元の同胞と日々接している支部職員の中には、『このままじゃいけない』と感じて、本国一辺倒で硬直化した組織を少しずつ変えようと言う人間も少なくない。そういう『出すぎた杭』を打つ上で、中央本部は絶好の舞台装置なんです。中央の幹部は、一般会員から改革を要求されたり、つるし上げにされたりするのが怖いから、支部に出向いて居丈高に指導するなんてことができませんから。だから中央本部なんかなくなった方が、総連は開かれた組織になるかもしれないんです。

むしろ、RCCにカタに取られている地方の本部や支部、学校がどうなるかの方が要注目です。競売にかけられる支部や学校を、地域の総連組織は競り落とせるかどうかはケース・バイ・ケースでしょう。債務の額や、その地域の組織の実力(会員数や経済力)によります。同胞たちや中央本部と違って支部や学校には強い愛着があるから、募金運動などをいったん頑張っては見るでしょう。結果的に力不足で諦めるケースが出てくる反面、自力で学校を競り落とす地域もあるはずです。

それはとりもなおさず、組織の作った借金を末端の人々が肩代わりするということなので、日本社会にも顔が立ちます。それに組織や学校に対する末端会員のオーナーシップが強まる。末端会員は商売などを通して日本社会と接していますから、総連も多少は物分りがよくなるかもしれません」

もっとも、拉致問題をめぐる日朝交渉で北朝鮮から総連本部問題での「善処」を突きつけられた日本政府の苦悩も理解できる。拉致被害者を「人質」に取られたも同然だからだ。

しかし北朝鮮の金正恩第1書記は昨年、久しぶりに訪朝した総連の許宗萬議長と会おうともしなかった(関連記事)。北朝鮮は、本当に総連を大事に思っているのか!? この点については機会を改めて検証してみたい。(了)

【連載 総連本部とはいったい何なのか】
(上) 花見客の間で光る警戒の目
(中) 金正日「就任パーティー」に居並ぶ政界重鎮
(下) 「別にシンボルではない」と元幹部は語る