北朝鮮式豆腐を売る脱北者パク・ソヨンさん
北朝鮮式豆腐を売る脱北者パク・ソヨンさん

偏見をはねかえして豆腐屋をオープン

「以前は脱北者は偏見の目で見られると思い込んでいたので、何かあればナメられないように怒鳴り散らしたこともありました。でも、それはやっぱりよくないと思うようになりました」

そう語るのは脱北者のパク・ソヨンさん(写真)。彼女はソウル近郊の軍浦(クンポ)市にある山本(サンボン)市場で手作り豆腐店「コンサラン(豆愛)」を営んでいる。

脱北して2004年に韓国にやってきたパクさんは、当初は市場の片隅でワラビや生活必需品を売る露天商だった。商売をやりはじめた頃は、冬の寒さに加えて他の商人から投げかけられる心ない言葉に身も心も凍りついていた。

「自分の店さえあればこんなみじめな思いをしないくてもいいのに…」

そう思っていたある日のこと。空き店舗が売りに出された。運転資金はおろか開業資金すらないのにパクさんは後先考えず契約してしまった。

その後は、通帳の残金を睨みながらのもどかしい日々が続く。「もう無理!」とあきらめかけた時、あることを思い出した。

脱北者支援のホームページで脱北者への融資をしてくれるマイクロファイナンスの記事を思い出したのだ。パクさんは心機一転、片っ端から本をあさり融資を申し込んだ。するとトントン拍子で事は進み起業教育まで受けることができた。

企業教育では、店舗経営のノウハウから人間関係に至るまで学んだが、知らないことばかりだった。

「豆腐のように人生も真心込めてゆっくり熟成したい」

そして2011月6月、ついに「自分の豆腐店」のオープンにこぎつけた。朴さんは北朝鮮で食べていたあの懐かしい豆腐の味を思い出しながら、昔ながらのやり方で豆腐を作った。

毎朝5時に起きて2時間かけての作業は決して楽ではない。でも苦労をかけた分、機械で作る豆腐とは味のレベルが違う。

韓国の豆腐は機械で作るせいか北朝鮮のものに比べて香りも味も数段落ちる。釜で作ったパクさんの豆腐はスッキリした味で香り高い。

「自分の舌で美味しいと感じるものはお客さんも美味しいと感じてくれるはず」

そんな思いで豆腐を作り続ける日々が続いた。パクさんの豆腐店が評判になるまでさほどかからなかった。馴染みのお客さんもでき、マスコミにも取り上げられた。おかげで店は連日の大繁盛だ。

しかし新たな壁にぶち当たる。1日に作れる豆腐はわずか100丁。お客さんが、休みの日に来て並んで待っても買えない状況となってしまった。

「豆腐がたくさん売れるのは本当にありがたかった。でも、買えないお客さんのことを思うと申し訳なくて…」

パクさんは悩んだが、それでも店を広げようとはしなかった。

「欲張れば結局無理をすることになる。無理をして楽しく働けなくなるのが嫌だった」

店を広げる代わりにパクさんが始めたのは売る品目を増やすことだった。おから、豆もやし、麦芽などを売るようにした。遠くからわざわざやってきたのに豆腐が買えなかったお客さんに手ぶらで帰ってもらうことはなくなった。

昼は市場で豆腐売り、夜は家で麦芽作り。寝る時間も惜しんで熱心に働いた。

「しんどかったけど、わざわざ遠くから来てくれるお客さんの顔を思い浮かべると力が湧いた」

真心込めた豆腐で成功を収めた今、初めて市場に足を踏み入れた時の冷たい視線はもはや感じない。近所の人とも明るく言葉をかわす。

「もっとおおらかな気持ちで何事も理解するように努力したら、周りの人との関係がよくなったのです。まだ完璧とはいえないけど、少しずつ本来あるべき姿に戻りつつあるじゃないかな」

?辛かった時があったせいか、控えめな言葉で自分を振り返る。

「今では少しでも困っている人に手を差し伸べる余裕もできたので、それなりに成功と言えます。オープンから間もないのにこんなに愛される店になるなんて日々感謝です」

ちょっぴり自信を取り戻したパクさん。最後には自らの手で作る豆腐と自分の人生を重ね合わせた。

「豆を選んで茹でて豆腐を作る。そんな毎日が今年も来年もずっと続くことを祈っています。そして豆腐のように私の人生も真心込めてゆっくり熟成したいですね」