朝鮮人民軍「崩壊の序曲」か

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朝鮮人民軍が、例年12月から行っている「冬季訓練」を1カ月前倒しで開始したと、韓国メディアが報じている。同訓練が開始されて以降、金正恩第一書記は軍部隊を4回視察。このうち3回は空軍部隊を訪れており、同氏が空軍を重視しているのは明らかだ。

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現地指導の際、空軍機の操縦席に乗り込んだ金正恩氏

正恩氏のこうした姿勢は、朝鮮人民軍「崩壊の序曲」となる可能性を秘めている。

北朝鮮空軍出身の脱北者によれば、正恩氏が空軍重視の姿勢を打ち出したのには理由があるという。

「空軍司令官の李炳哲(リ・ビョンチョル)は縁故も特段の戦功もない人物ですが、李が司令官を務める空軍基地を視察した金正恩は彼の人懐っこさを気に入り、側近に加え、空軍司令官にまで引き上げたのです。そんな李はメカ好きの金正恩にぴたりと寄り添い、戦闘機の魅力、空軍の必要性を吹き込みました」

李氏の影響を受けた正恩氏は、故金日成氏の誕生日である4月15日に第1回飛行士大会を開催して自ら出席。一時的に動静が途絶えた後、40数日ぶりの公開活動開始から立て続けに空軍部隊の現地視察を行った。

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それにもかかわらず、李氏は12月8日、正恩氏の空軍部隊視察を報じたニュースを通じて空軍司令官から外れていたことが明らかになった(関連記事)。

北朝鮮ウォッチャーは、李氏の今後の人事待遇しだいでは、朝鮮人民軍「崩壊の序曲」につながりかねないと指摘する。

「李炳哲が解任されたのか、あるいは昇格したのかは明らかではありませんが、金正恩の空軍重視が面白くない陸軍の反発を買った可能性があります。海空軍というのはカネ食い虫なのです。海空軍の近代化が進めば陸軍は予算圧迫、規模縮小の憂き目に遭い、政治力も弱まってしまう」

「党の軍隊」から「国軍化」へ

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そもそも共産国の軍隊は、「革命の前衛」という性格から陸軍が主体であり、陸海空軍は同列ではない。伝統的に陸軍重視の軍隊にあって、海空軍の近代化が生む軋轢と葛藤の深刻さは他国の比ではないのだ。

「さらに言うなら、海空軍の近代化は『国軍化』の議論を引き起こしかねないという点で、無視できない問題なのです」(前出・北朝鮮ウォッチャー)

中国人民解放軍機関紙「解放軍報」2012年3月19日付は、「党の軍隊」である人民解放軍を政治的に中立な国家の軍隊、いわゆる「国軍化」すべきとの議論を「断固阻止する」と強調する論評を掲載した。国軍化議論は人民解放軍の近代化が進むにつれて活発化し、とくに技術重視で政治と距離がある海空軍で深められてきた。長きにわたり「語るもタブー」とされてきたが、機関紙が敢えて公式に否定しなければならないほどに議論が一般化してきたということだ。

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中国のような「党の軍隊」の次元を超え、独裁者の軍隊となっている朝鮮人民軍で直ちに「国軍化」議論が起こることは考えられない。しかし、金正恩氏がこのまま海空軍や戦略ロケット軍の近代化を推し進めれば、遠くない将来、軍部内の「飼い犬」に手を噛まれることもあり得なくはないのだ (取材・文/ジャーナリスト 三城隆)