11月10日に死去した俳優の高倉健さんのファンが北朝鮮にもいた。

昨年、韓国で脱北者と話している時に、日本映画の話題になった。北朝鮮では近年、「韓流ドラマ」が違法ソフトとして流入し、北朝鮮当局の頭を悩ませているが、かつては日本の映画や映像ソフトも、北朝鮮を支持する在日本朝鮮人総連合会によって持ち込まれていた。

そんな話をしていると、脱北者がふと思い出したように語り始めた。

「そう言えば、軍隊に所属していたころ、外国映画を見る講義があるんだが、すっごい面白い日本映画を見たんだよ。人生に敗北して絶望を感じた男達が、電車に爆弾を仕掛けて乗客を人質にしてカネを要求する。なんていうタイトルだっけなぁ・・・」

電車と爆弾というキーワードでピンと来た。健さんが主演した映画「新幹線大爆破(1975年)」だ。

「資本主義のテロ」の講義で「新幹線大爆破」

幸運にも映画を見ていた筆者がストーリーを説明すると、その脱北者は、大きく頷きながら熱く語り始めた。

「それだよ!『資本主義社会のテロとは何か?』という講義(!)のなかで見たんだよ。犯人と事件を防ごうとする警察、鉄道会社との攻防が、実にスリリングに描かれていて、見ていたみんな(軍人たち)が興奮したよ」

脱北者の話をきっかけにDVDを入手して改めて見直すと、なかなかよくできた映画だ。

あらすじはこうだ。中小企業を倒産させた真面目な男性(健さん)と売血で生活していた失業者、そして元全共闘活動家の男達が、人生に絶望を感じてテロを企む。3人は、走っている新幹線が一定のスピードに落ちると、起爆する爆弾を新幹線に仕掛けて、国家に身代金を要求する。

一部、新幹線が走るシーンはミニチュアで、CG全盛期の今から見ると少々作り物感はぬぐえないが、なかなかスリリングに仕上がっていて、製作側の工夫と演出の妙が光る。

任侠俳優として名声を高めていた健さんが演じたのは、倒産寸前の町工場の社長だ。暗い工場で油にまみれて働くその姿は、任侠俳優とは違った味を出していた。

余談だが、健さんは同時期、「ゴルゴ13」の実写版でデューク東郷を演じている。故人には失礼だが、「新幹線大爆破」と違って、こちらは観ていて疲れる映画だった。

国家と闘う寡黙な健さんに「革命精神を感じた」

「新幹線大爆破」には、高度成長期に対する批判も暗にこめられているという。

社会の成長から脱落した「負け組」3人が、鉄道テロを犯すことで国家と社会に復讐する――ある意味、昨今の日本で頻発する「負け組」犯罪にも通じる。

先述の脱北者は、映画を振り返って語った。

「寡黙で真面目な主人公の男(健さん)や資本主義の犠牲者たちが、鉄道テロで国家にケンカを売る。犯罪であることに間違いはないのだろうが、なんというか革命精神のようなものを感じたね」

「人命を優先しながらテロを阻止しようとする鉄道会社社員(宇津井健)の責任感にも、私も自分の持ち場を命がけで守る軍人なので、純粋に感動したなぁ」

北朝鮮の軍人さえも感動させた高倉健さんの熱演。生前の故人に是非、聞いてほしかったエピソードだ。

「健さん、あなたの熱演には北朝鮮の人々も感動していたんですよ」と。

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記