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5月2日、朝鮮人民軍総政治局長のポストが、崔龍海(チェ・リョンヘ)から黄炳瑞(ファン・ビョンソ)に交代したことが確認された。崔龍海は、今年3月、4月と二度に渡って動静が途絶えたことから「軟禁説」「失脚説」「健康不安説」が流れていた。

最初に動静が途絶えた3月、私にも「崔龍海失脚の可能性」について複数のメディアから問い合わせあったが、「あり得ない話しではないが、今の段階で断定するのは難しい」と控えめに答えておいた。「あり得ない話しではない」と含みを持たせたのは、理由がある。 張成沢が処刑されて以後、一般的にナンバー2と言われていた崔龍海だが、私は「崔龍海はナンバー2ではなく、必ずしも政治的に安泰とは言えない」と指摘していたからだ。その根拠について述べてみたい。

張成沢の処刑の意味を一言で言うなら、「ナンバー2(張成沢)を消しただけではなく、ナンバー2という存在は今後も許さないという金正恩の断固たる意思表示」となる. 首領独裁制という北朝鮮体制のなかでは、金正恩以外は誰がどれだけ強い権力を持とうが、所詮は「どんぐりの背比べ」に過ぎない。事実上のナンバー2として君臨してきた張成沢の処刑は、最高尊厳(金正恩)以外は、例え叔父であろうと、突出した権力を持つことを決して許さないことを意味している。

それゆえに、崔龍海がナンバー2になることを金正恩が許すはずはないのである。また、ナンバー2として崔龍海はあまりにも役不足だ。確かに崔龍海は、金正恩の祖父・金日成の盟友だった抗日パルチザンの伝説の一人「崔賢」を父にもつ、いわゆるサラブレッドだ。血統が重視される北朝鮮権力層のなかでは、権威としては申し分ない。しかし、彼は父の偉光を頼りに北朝鮮政治のなかで生き抜いてきたものの、そもそもバックボーンがない。朝鮮人民軍を党人として思想統制する「総政治局長」という肩書きはあっても、もともと軍人ですらない。

加えて、この人物は過去に起こした横領事件や、女性問題などで北朝鮮国内の評判も悪い。彼が拠り所とするのは、白頭の血統に最も近い血筋のみであり、北朝鮮権力層のなかで、真の実力者となるには器不足だった。本人もそれを自覚しているふしがある。

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この間、現地視察のたびに金正恩に寄り添う崔龍海は、あたかも最高指導者にゴマをすっているかのようだったが、その二人の関係を象徴するような映像がある。

2月中旬から動静が途絶えた崔龍海は、まず3月に「軟禁説」が囁かれるが、4月はじめに姿を現す。4月7日の朝鮮中央テレビで、金正恩の理髪店を現地視察するのだが、その時、ちょうど崔龍海が散髪をしていたのである。もちろん「ヤラセ」だが、崔龍海は、あの「野心ヘア」カットの真っ最中だった。

画面からは、「私も金正恩同志のスタイリッシュな野心ヘアを真似て忠誠を誓います」とでも言いたげな崔龍海の媚びを売る姿勢が伝わってきた。その様子を見る金正恩はゲラゲラ笑うという、思わず崔龍海に同情したくなるような屈辱的な光景が放送されたのである。 それ以後、彼の動静は再度激減し、またもや「失脚説」「健康不安説」が囁かれるが、その直後の労働新聞(4月27日付け)では、崔龍海らしき後ろ姿が見られる。 140427労働新聞

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参加者の後頭部を見ると見事に野心ヘアばかりだ。正面写真がないことから本人確定するのは無理だが、この人物が崔龍海だとすると、少なくとも肉体的には健在となる。

それにもかかわらず、冒頭で述べたように崔龍海に代わって黄炳瑞が朝鮮人民軍総政治局長に就いた。交代(解任?)の背景に「健康不安説」があると言われているが、実は崔龍海本人の実力不足が原因かもしれない。彼の総政治局長という肩書きも「実力はさておき、抗日パルチザンの血統は重用する」という象徴以外の何物でもなかったのかもしれない。 健康問題を抜きにしても、金正恩現地視察の同行回数が激減している崔龍海の政治的立場は決して安泰ではない。結局のところ、「崔龍海ナンバー2説」は、過大評価に過ぎなかったと私は見ている。

では、崔龍海に代わって新しく「朝鮮人民軍総政治局長」になった黄炳瑞とは、果たして何者なのか?私は以前より「最近、急浮上している黄炳瑞こそが要注意人物かもしれない」と指摘していた。 なぜか?

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彼が、張成沢処刑に暗躍したと言われる金正恩の新側近集団、通称「三池淵5人組」の一人だったからである。 (以下「金正恩の新しい側近達(2)」につづく)

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高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記