朝鮮中央通信によると24日、米国人ミラー・マシュー・トッド(男24歳)氏が拘束されたという。 北朝鮮当局が発行した観光証を破りながら「亡命する」「避難所として決めてきた」と騒ぎ立て法律秩序を乱したとのことだ。発表をそのまま受け止めると、ミラー氏の言動は「(北朝鮮へ)亡命する」「(北朝鮮を)避難所として決めてきた」となる。あたかも「敵国である米国人でさえも金正恩同志の暖かい懐に抱かれたい熱い思いを持っていた」と言いたげだ。
普通に考えたら「米国人の亡命」という言動は、当局による捏造で、その裏には北朝鮮の政治的意図、すなわち「米国への牽制」が隠されていると思われる。オバマ米大統領が日韓を訪れ、北朝鮮問題でも懸念を示しているこのタイミングだけに、「ささやかな報復」、そして「米国との直接対話」を狙った北朝鮮お得意の「人質外交」だ。
ミラー氏が北朝鮮で何をして何を言ったのかわからない。純粋に観光で訪れたにもかかわらず、北朝鮮当局に拘束されただけかもしれない。その一方で、あり得ないとは思いつつも「仮に本気で亡命申請をしていたら?」というシュールな疑念も消し去ることが出来ない。
「北朝鮮に亡命したい人間がいるわけないだろうっ!」と突っ込まれそうだし、私自身も「北朝鮮に亡命」など露ほども考えない。北朝鮮も受け入れるわけがなく、むしろ迷惑なだけだろう。ただし、純粋に自分の目で北朝鮮を見たい、とりわけ地方の一般庶民の生活を見てみたいという強い思いはある。世界には想像を越えた色んな考え方や主張を持った人々がいるのだ。
「もしかしたらミラー氏は、北朝鮮という“ワンダーランド”に魅入られ、勢いで亡命申請した勇敢なチャレンジャーだったのか?」と頭の隅に浮かんだりもするのである。そもそも、核実験もささやかれている緊迫したこの時期に、わざわざ米国から北朝鮮を観光訪問する行為自体が、実にスリリングだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面余談だが、私の知人に若くて極めて優秀な日本人のチョソン・クラスタ(北朝鮮マニア)がいる。彼は北朝鮮に傾倒するあまり、呆れ果てたご両親からこう言われたという。 「あんた、そんなに北朝鮮が好きなら日本海側の海岸沖でウロチョロしたらエエやん。船でこっそり連れて行ってくれるで」
笑えないブラックジョークだが、過去には実際に中朝国境の河を渡って北朝鮮へ入国後、亡命申請するという日本人女性の猛者もいた。
ミラー氏が、実はぶっ飛んだチョソン・クラスタで、「亡命」を口にしたところ、北朝鮮は絶好の機会と彼を拘束し「亡命」「避難所」とあたかも「自由意思」で来たことを発表する。そして、米国に対するカードの一枚として利用する。だとすると「飛んで火に入る夏の虫」だろう。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面真実はミラー氏が解放されるまでわからないが、彼が本気で北朝鮮への亡命を考えた危険な冒険者なのか、それとも北朝鮮当局の仕組まれた陰謀なのか、興味は尽きない。
【平壌4月25日発朝鮮中央通信】
共和国の当該機関が去る10日、観光を目的に入国して入国検査過程に妄動を働いた米国公民ミラー・マシュー・トッド(男、24歳、米国人)を抑留した。 ミラー・マシュー・トッドは、入国過程に共和国の当該機関が合法的に発給した観光証を破りながら「亡命する」「避難所として決めてきた」と騒ぎ立てて、共和国の法律秩序に乱暴に違反した。 当該機関は、ミラー・マシュー・トッドの行為を重大視して彼を抑留し、現在、調査を行っている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面チュチェ103(2014)年4月25日 平 壌
朝鮮中央通信報道より
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。