北朝鮮が第4次核実験の兆候を見せている。 3月26日に行われた日米韓首脳会談では「北朝鮮の核・ミサイル問題における三国の連携」が確認されたが、それに当て付けるようなタイミングで北朝鮮は、中距離弾道ミサイル「ノドン」を発射。そして、今回はオバマ米大統領のアジア歴訪にあわせるようなタイミングで、核実験をちらつかせている。過去3回の核実験と同じく、「ミサイル発射」→「国連安保理の非難」→「核実験」という流れだ。国際社会から非難されているにもかかわらず、一向に放棄する気配を見せない北朝鮮の「核開発」について考察する前に、まずは、核兵器についておさらいをしてみたい。

仮に「核爆弾」を開発し、保有していたとしてもそれは強力な「手榴弾」を持っているに過ぎない。どんなに強力であろうと、この「手榴弾」を相手側に投げない限り、最悪の場合は自爆あるのみ。そこで、投げる手段である「ミサイル」が必要となってくる。「核爆弾(手榴弾)」と「ミサイル(投げる手段)」の組み合わせが成立して、はじめて「核兵器」は脅威となる。さらに「ミサイル(投げる手段)」があっても相手側に届かない限り、これまた最悪の場合、自爆あるのみ。だからこそ、ミサイルの射程距離が議論される。

北朝鮮は、長距離弾道ミサイル「銀河3号」の打ち上げに成功しているものの、狙う本丸「米国」まで「核ミサイル」を届かせるためには、技術的にクリアすべきハードルが多い。米国が北朝鮮の核兵器にそれほど脅威を感じていないのは、こういった背景がある。

ただし、米国にしてみれば、仮に核ミサイルが本土に届かないにしろ、その「核技術」が中東やアフリカの反米国家に拡散するという事態は絶対に避けたい。また、北朝鮮を核保有国として認めた場合、周辺国である韓国や日本も「自衛手段として核保有すべきだ」という議論が出てくるだろう。いずれも米国にしてみれば「核の悪夢」である。自ら開発した「核爆弾」が、ブーメランのように己に返ってくる危機になりかねないところが、いかにも覇権国家・米国らしいが、北朝鮮はこのあたりの米国の弱みを十分に熟知しながら「ミサイル」を発射し「核実験」を強行してきた。

確立はしていないものの、「ミサイル→核実験」というパターンは北朝鮮が米国と直接交渉するための勝利の方程式、いわば「米帝に勝つためのウリ(我々)式勝利の方程式」ともいえる。ただし、今の米国にとっての重要課題はクリミア問題や中東問題であり、さらに「ウリ式勝利の方程式」が既に通用するはずの近隣諸国に対して北朝鮮が、政治的優位に立っているかと言えば、必ずしもそうではない。

このような背景で、北朝鮮が核実験の強行をちらつかせているのはズバリ、「つれないオバマ米大統領の目をなんとか北朝鮮にむけさせたい」という意味合いが大きい。また、北朝鮮からすれば「不倶戴天の敵である米帝侵略者の首魁」が手の届く場所に来ているにもかかわらず、労働新聞や朝鮮中央通信などの「口撃」による非難だけでは「強硬姿勢は負け犬の遠吠え」と思われかねない。

本稿を書いている時点(23日未明)で、北朝鮮の核実験を予想することは出来ないが、それなりの条件は揃っていると言わざるを得ない。また、北朝鮮は「世界よ、見よ。朝鮮は決心したらやる。やるといったらやる」とこちらが赤面したくなるような自己アピールを厭わない国家でもある。

ただし、歯切れが悪くて申し訳ないが、金正恩体制が「核実験強行後のリスク」を少しでも理性的に計算出来るのなら、少なくともこの時期は回避するかもしれない。

2012年の長距離弾道ミサイル「銀河3号」の発射と第3次核実験(2013年2月)、そして、続けざまの「第二次朝鮮戦争騒動」を通じて、北朝鮮は何も成果を得られず、中朝関係の悪化と国際社会のさらなる孤立を招いてしまった。

今回、核実験を強行すれば、中国との関係改善はさらに遠のくだろう。また、韓国珍島沖で発生した旅客船沈没事故によって大きな打撃を受けている韓国社会の対北感情は間違いなく悪化し、国際社会のイメージダウンも不可避だ。わずかな進展を見せつつある日朝関係も水の泡になりかねない。この間、北朝鮮が「ノドン」を発射しているにもかかわらず対話を続けた日本だが、核実験が強行されれば対話の糸は切れるだろう。

北朝鮮にとって、核実験強行は「われわれには、まだすべて話さず、すべて公開していない最先端の世界的な打撃力量と安全保衛手段がある(2010年人民保安省と国家安全保衛部の共同声明より)」どころか、「無慈悲な政治的自爆」になることは火を見るよりも明らかだ。そもそも北朝鮮にとって「核開発」は、得るものが極めて少ない「諸刃の剣」である。「核開発」は、「先軍政治」とともに、北朝鮮経済を圧迫させる大きな要因になっている。また、3度の核実験によって土壌汚染も確実に進んでいるはずだ。

「核ゲーム」という悪循環を絶ち、北朝鮮が国際社会からの信頼を築くためには、北朝鮮自らが刃を納めるしかないだろう。史上最悪の殺戮兵器である「核爆弾」を生み出し、実際に使用したのは米国である。その米国に最も噛みついている北朝鮮が、あえて核開発を放棄すれば、それはとりもなおさず「宿敵米帝」に対する最大の意趣返しであり、国際社会も評価せざるをえなくなる。

北朝鮮の国民のため、そして東アジア全体の和平と安定化のためにも、金正恩体制が「核放棄」という英断を下すことを心から望む。

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記