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金正恩体制のキー・パーソンの一人だった金正恩同志の叔母・金慶喜(キム・ギョンヒ)失脚説が流れている。北朝鮮の公式記録映画から削除され、別の動画に差し替えられたことが判明したからだ。先日開かれた「最高人民会議」でも彼女の姿は見られなかったことからその動向に注目されていた。

ちなみに「最高人民会議」は、日本の「国会」に相当するが、大きく違うのは形式上の機関であることだ。北朝鮮で国家的な政策を議論し決定されるのは「朝鮮労働党」や「国防委員会」であり、最高人民会議は「追認機関」であり、その下に位置する「内閣」は、「行政を執行する機関」に過ぎない。よって、金永南最高人民委員会常任委員長をはじめとする古参の政治家が留任したからといって「金正恩体制が長老グループの影響を排除出来ず、今後も操られるだろう」という見方は間違っており、表向きは長老派に配慮したという程度だろう。このあたりの考察については、多くのメディアによって解説されているので、そちらを参考にしていただきたい。

その最高人民会議で、金慶喜氏が姿を見せなかった。最高人民会議が開催された4月9日当日の朝鮮中央テレビでを見たが、彼女の姿はなくひな壇に一つだけ空席があった。

2014年4月9日朝鮮中央テレビのキャプチャー
2014年4月9日朝鮮中央テレビより

これを見た時、私は直感的に「あっ、この席は本来金慶喜が座るべき席だったのではないか?」と思った。同時に、「やはり、彼女は政治的生命を終わらせた」とも。

金日成の娘であり金正日の妹という意味で「白頭の血統序列ナンバー1」は、金慶喜である。私は拙著「金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) 」において、金慶喜氏は「白頭の血統序列ナンバー1」の立場として、金正恩体制の権威を守る役割を果たしていると書いたが、その見立ては早くも過去のものになったのかもしれない。

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では、誰によって政治生命を終わらされたのか? 金正恩同志が叔父だけでなく、叔母までも無慈悲に粛清したのか?私は彼女自らが、表舞台から退くことを望んだとみている。張成沢が処刑されたことにより、北朝鮮内部で、金慶喜氏は「夫である張成沢を死に追いやった女」として悪評が広まっていた。仮に、彼女の肉体的生命が健在だとしても、やはり粛清された男の元妻として表舞台に顔を出すことを躊躇ってもおかしくはない。そうでなくとも、昨今の金慶喜氏は激ヤセ状態で、昨年(2013年)7月に彼女を間近で見た人によると「足取りもフラフラしており、とても表舞台で政治に携われるような状態ではなかった」とのことだ。

政治的生命を終わらせた金慶喜氏の代わりの役割として注目されるのが、母親違いの姉・金雪松氏であり妹である金与正氏だ。これに加えて夫人の李雪主も重要な役割を果たしていくとみているが、いずれも守ろうとするものは金正恩同志が唯一のより所とする「白頭の血統」に過ぎず、そこに北朝鮮の一般民衆は不在である。

北朝鮮は建国以来、「民心不在」の権力闘争を続けてきた。金正日時代もそうだったが、とりわけ金正恩時代になってからは、複雑な人間関係から発する「王朝政治」の体をなしている。ここに「俺たちのマサオ」こと金正男氏が絡んできたら、まさに韓流ドラマ顔負けの「ドロドロ系の人間愛憎劇」だ。

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閉ざされた王朝政治が、北朝鮮という国家をより良い方向へ導くわけはない。金正恩体制が、いくら「王朝政治」を通じて「白頭の血統」を守ろうとも、国際社会のなかで理解不能なジグザグ行進を続ける限り、そのツケを払わされるのはチョソン(北朝鮮)の一般民衆であることは忘れてはいけない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記