先日、フジテレビの「新報道2001」という番組にスタジオ出演した。 「北朝鮮特集」というタイトルの放送内容だったが、同席したのは元防衛庁長官の自民党・中谷元副幹事長や前防衛相の森本敏氏、産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏など錚々たる面々。

重鎮の方々を前に前にして、何を話せるのだろうか?という疑問もあったが、私に与えられたミッションは、金正恩同志の「野心ヘア」や彼を取り巻く女性達(妹である金予正(キム・ヨジョン)氏や母親違いの姉である金雪松(キム・ソルソン)氏)について斜め下の視点からコメントすること。

金正恩同志のあの特徴的な刈り上げカットは「野心ヘア」や「野望ヘア」と称されている(※その後、『覇気ヘア』と言われていることが明らかになった)。彼が、一体誰に対して「野心」を持ち、何に対して「野望」を抱いているのかはさっぱりわからないが、米帝(アメリカ帝国主義)に対する「野心」と「野望」なら、その心意気やよし!と言いたい(実現可能かどうかは別として・・・)。

確かに、私は金正恩同志のヘア・スタイルについては2010年の公式登場以来、ウォッチしてきた。あるサイトでは、「とくに金正恩の刈り上げカットには造詣が深い」とされたこともある。 拙著「コチェビよ、脱北の河を渡れ: 中朝国境滞在記(新潮社)」や「金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) 」でも記したことだが、特徴的なヘア・スタイルは金日成を真似たと言われている。しかし、時が経てば経つほど「金正恩の野心ヘア」は独自の進化を遂げ、いまや彼自身のアイコンとなりつつある。

金正恩同志は、金日成生誕100周年の2012年4月15日を前にして「朝鮮労働党第一書記」「国防委員会第一委員長」という役職に就き、名実共に北朝鮮の最高指導者となったが、その時に公開された写真がこちら。

2012年4月13日の金正恩
2012年(主体101年)年4月13日労働新聞より

太りすぎではあるものの、なかなか凜々しくて、若さと野心に満ちあふれた前途有望な指導者といったところか。

しかし、2年後の今年4月10日の労働新聞一面を飾った写真では大きく変化する。

2014年4月10日の金正恩
2014年(主体103)年4月10日労働新聞より

いや、これはもう祖父の首領様(金日成元帥様)どころじゃありません。付け加えるのなら父の将軍様(金正日将軍様)のパーマスタイルも超越しているでしょう。ご丁寧に眉毛まで剃って、ますます変な意味での「凄み」を増している。ヘア・スタイルやイメージにおいて、金正恩同志は自らのオリジナリティを確立したと言っても過言ではない。ただし、金正恩同志が「己のカラーを確立した」からといって、今の北朝鮮にとって大きな意味があるとは思えない。

彼の「野心ヘア」について語る時、あの特異さからどうしても茶化されたり揶揄されるきらいがある。しかし、以前から私は、「野心ヘアの裏には金正恩同志の心境や、彼が今置かれている状況などが隠れている」と指摘している。 すなわち、金正恩同志自身の心境の不安定さだ。

「野心ヘア」「サングラス」「タバコ」「眉ぞり」など彼の奇天烈で理解不能な行動の裏には、若くして独裁者となった金正恩同志の複雑な苦悩や虚栄心があると見ている。そういった彼の不安定な心境がダイレクトに北朝鮮の政策に直結する時、北朝鮮はまたもや危ない方向に行くのではないかと危惧している。

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高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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