女性がスカート姿で自転車に乗るのはみっともない

北朝鮮当局が、女性が自転車に乗ることを禁止したのは1996年ごろからのことだ。住民の証言によると、金正日総書記は車から、スカートを履いて自転車に乗っている女性も見て「朝鮮の女性は昔からスカートを履いているが、それで自転車に乗るとみっともない」という理由で、女性自転車禁止令を下したという。

この話を聞いた忠誠競争に忙しい幹部たちは、各地域でせっせと取り締まりに励んだ。拝金主義が横行していることと、市場経済化が進んだことで有名無実化している地域が多かったが、平安南道(ピョンアンナムド)の順川(スンチョン)では6月に正式に女性の自転車使用が解禁された。

順川では、女性が自転車に乗っていて取り締まりにあったら、自転車を取り上げられてしまう。保安署(警察署)に出頭して2〜3万北朝鮮ウォンの罰金を払い、ようやく返してもらえる。(1ドルは約3000北朝鮮ウォン)

自転車は、商売をして家族を養う女性たちにとって欠かせないものだ。コメがなくてトウモロコシ粥を食べているのに、自転車を取り上げられば、ヤケをおこしたくなるだろう。実際に、自転車のせいで川に身投げした女性がいる。

大規模粛清後の綱紀粛正キャンペーン

順川市は、市の労働党や企業所の責任幹部と謀議して、金日成主席にゆかりのある工作機械を中国に売り払い、首謀者のパク・キドク(パク・キウォンとも)が公開処刑された「トルドゥリョン(石の親分)事件」を受けて、労働党も行政機関も幹部が総入れ替えとなった。

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新たに安全部長として赴任してきたのは、以前北倉(プクチャン)郡の安全部長だった人物だ。彼は3月初めから地域の綱紀粛正を宣言し、正規の保安員だけでなく、民間の糾察隊まで大挙動員して取り締まりを行ったという。

当然、自転車に乗っている女性も対象だ。いや、格好の標的だ。細々とワイロを巻き上げられるからだ。ところが、それが悲劇的な事件を巻き起こしてしまった。

夫思いの女性の悲劇的な最期

3月中旬頃のこと。殷山(ウンサン)郡天聖(チョンソン)労働者区に住む30代女性は、教師の仕事をしているが、軍隊にいる時に怪我をして下半身不随で仕事ができない夫を養っていた。

彼女は、トウモロコシの値段が下がったと聞きつけ、自転車に乗って自宅から15キロほど離れた市場に急いだ。5キロものトウモロコシを買って、自転車の荷台に乗せて自宅に戻る途中、大同江の橋を渡る時に糾察隊の取り締まりにあった。

「順川の事情は知らなかった、一度だけ見逃して欲しい」と1時間以上にわたり頼み込んだが、どうしても聞き入れられなかったため、「返さなければ大同江に身を投げる」といい出した。

糾察隊はまさかと思い、自転車を持ち去ろうとした瞬間、女性は本当に川に身を投げてしまい、死んでしまった。

この事件が知れ渡り、順川や殷山の人々の間では怒りが広がった。特に殷山の人々の怒りは凄まじく、女性が身を投げた橋を担当していた派出所の所長の家のガラス窓が全て割られたほどだという。

結局、中央に報告され、2ヶ月後に「当該の糾察隊員は地方に追放せよ、順川とその近隣の女性が自転車に乗ることを許可せよ」という指示が下された。女性教師は自らの命と引き換えに、地域の女性に自転車に乗る権利を与えたのだ。