北朝鮮を担当する中国の党・政府の現役官僚たちが、リスクを承知でその持てる知識・経験・情報を集結して北朝鮮を分析し、話題を呼んでいる。この本『対北朝鮮・中国機密ファイル』(欧 陽善著 富坂 聰編 ・ 文藝春秋・2007年)は、中国国内ではあまりに北朝鮮の暗部を書きすぎているとして出版ができず、世界に先駆けて日本で初出版された。
今まで表出されなかった、中国発信の北朝鮮問題研究についてその神秘のベールが明かされる。
「中国対朝鮮外交政策の仕組み」
「2006年10月9日、朝鮮は再三にわたる中国の反応にも耳を貸さず、とうとう核実験を行った。中国外交部はその日のうちに非常に厳しい声明を公式に発表したのだった。
「10月9日、朝鮮民主主義人民共和国は国際社会の普遍なる反対を無視し、横魔ノも核実験を実施した。このことに対し中国政府は、断固たる反対を表明する(後略)」
新華社通信を通じて発表されたこの公式声明は全世界に伝えられた。声明は短いものだったが、表現はまるで敵国を非難するかのような厳しい言葉が並んでいた。
歴史的にも複雑な背景を持つ中朝間では、これまでずっと対朝外交は中国側の妥協と譲歩の連続だった。中国の外交部はこれまで、対朝鮮における「党と党」、「軍と軍」それぞれが行う外交の陰に隠れ、常に脇役的な存在だった。ここで、著書では以下のようにその理由が述べられている。
「?中朝関係は最も親しい関係といわれる一方で、中国の朝鮮大使の扱いは朝鮮国内の外国人とそれほど変わりがなく行動範囲も細かく制限されているため、自由な外交活動が行えないという現実がある。そのため外交部の若手外交官には朝鮮への赴任は極めて不人気で、駐在したくない国の「ワースト5」に入るとされている。その理由の多くは「暇で仕事が少ない反面、制限や注意事項がいろいろあり、つまらなくて貧しい」というものだという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面?朝鮮の対中外交は、あくまで「党と党」、「軍と軍」が優先されるという伝統があるため、大使館の役割は限定され、業務はあたかも双方の国の上層部の意志を伝えるだけの単なる“メガホン”のようであること。
?朝鮮は外交上、神経質にならざるをえない国家であり、大使個人の性格や言論で摩擦やトラブルを引き起こすようなことになればたちまち国家間の反目に発展する恐れがある。そのため個性の強い外交官や豪腕外交官といった能力の高い外交官ほど派遣のリストからはずされるという傾向がある。性格がおとなしく律儀な人が適任されるとされてきたのだ」
朝鮮、韓国に関わる朝鮮半島事務は、外交部ではアジア局が担当している。アジア局のなかには朝鮮処(課)と韓国処(課)があるが、2003年の6者協議に対応するため、わざわざワンランク格上の「朝鮮半島事務弁公室」を発足させた。この弁公室のメンバーは、そのまま6者協議の中国代表団の団員でもあり、その代賦iが同じく2003年に新しく設けられた朝鮮半島事務大使という職である。それまで外交部の中では、不特定の国家や地域の事務に対して特命全権大使を任命することは極めて異例のことで、そのため朝鮮に対するこの措置は、まさに中国外交政策の調整と変化が浮黷ヘじめた兆候だといえよう。
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朝鮮の政権は崩壊を予測されるようになってから長い歳月が過ぎた。では、いつ潰れてもおかしくないと言われながらも、金親子の政権が今日まで立派に維持されてきたのはなぜだろうか。中国の関係機関は政治、軍事、社会の仕組みといったそれぞれの角度からアプローチを行い、その膨大な情報を以下のようにまとめている。
たとえば、軍事である。
著者は、「軍隊があれば、すべてがあるのに等しい。軍を握る者は、国の支配者となれるものだ。毛沢東のこの名言は、まさに朝鮮にもあてはまるだろう。『飴がなくても生きてはいけるが、銃弾がなければ生存できない』毛沢東の名言に似たこの言葉が、最近、再び頻繁に朝鮮のメディアに現れるようになってきているのは大きな変化である。この言葉は金正日が提唱した『先軍政治』思想を端的に表現したスローガンなのだ」と指摘する。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面これについて著者は、「大規模な軍隊を持つこと、すなわち潜在的な反社会勢力にもなりうる若者を軍隊のなかに取り込んでしまうということは、経済の苦しい状況下では社会の安定を保つための一つの有効な手段なのである」と分析している。
この本は、世界に先駆けて日本で出版するために、加筆した部分もあり、平和ボケした今の日本の国民に対するメッセージでもあるようだ。今年の夏にオリンピックをひかえている中国であるが、チベット問題をはじめ国際的に非難を浴びている現状で、今後の対北朝鮮政策においてもその当局の動向を注目したい。