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北朝鮮政府は、穀物の無駄使いの根絶を掲げ、密造酒の製造と販売の取り締まりに乗り出したと、デイリーNKの複数の内部情報筋が伝えた。

平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)の内部情報筋は、3月10日から新義州、、慈江道(チャガンド)の江界(カンゲ)など中国との国境に面した地域に中央党(朝鮮労働党中央委員会)の検閲グルパ(取締班)がやって来て、市場で密造酒を販売している人を取り締まっていると伝えた。

今回の取り締まりの目的は、酒の密造による穀物の無駄遣いを防ぐことにあるというのが、情報筋の見立てだ。

平安南道(ピョンアンナムド)の南浦(ナムポ)や平城(ピョンソン)では、小麦粉1キロの価格が2000北朝鮮ウォンまで上昇し、国境に面した地域の市場では、コメ1キロの価格が1850北朝鮮ウォンまで上昇した。つまり、密造酒用の穀物の需要が、穀物価格を押し上げている可能性があるということだ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の内部情報筋も、2月末から密造酒の取り締まりが行われていると伝え、同時に「人民の生活の向上を阻害する、食糧浪費の根を徹底的に絶とう」というテーマで政治講演会が行われていると伝えた。「密造酒などにより食糧が無駄遣いされている、その量は全国的に1日600トンに達する」というのが主な内容だ。1年に治すと21万9000トンが密造酒に使われているという計算になる。

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また、中央党から派遣された責任者と道人民委員会(道庁)の幹部からなる検閲団が、別の道に行って取り締まりが行われている。慈江道の幹部は平安北道で、平安北道の幹部は慈江道で取り締まりを行うという形だ。地元の幹部が地元で取り締まりを行うと、手心を加えてしまうことから、このような形が取られているものと思われる。

中央党の検閲団は「密造酒の販売とあらゆる儀式や行事(冠婚葬祭や幹部の会食など)での食糧の無駄使いを断固として統制すべき」と強調し、人民班(町内会)の各世帯を回って台所や納屋をひっくり返し、酒の瓶や酒造器具をすべて没収している。

また、市場や国営商店でも厳しい取り締まりを行っている。商人は、羅先(ラソン)で製造されたビニールパック入りの酒や、中国から密輸された酒を密かに販売している。

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摘発された人は、酒と材料をすべて没収され、罰金刑に処せられ、製造、販売の量が多い人の中には、見せしめとして労働鍛錬隊(軽犯罪者を収監する刑務所)に送られる人が続出している。

1987年の「禁酒令」が密造酒蔓延のきっかけ

北朝鮮で酒の密造が広まったのは、1987年に政府が酒の生産と販売を禁止したことがきっかけだ。

それ以前は、各市や郡にある基礎食品生産工場(食料品工場)が酒を生産し、国営商店で販売していたが、禁止令以降は生産を中断した。あまりにも多くの穀物が使われ、飲酒は社会主義文化を乱す非社会主義行為というのがその理由だが、実際は食糧の需要を満たせるほどの生産量がなかったことが原因だ。

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1980年代の年間の食糧生産量は平均410万トン程度で、毎年100万トンから150万トン程度が不足し、その穴埋めを旧共産圏からの輸入や支援に頼っていたため、問題が表面化することはなかった。しかし、旧共産圏の没落で食糧が得られなくなり不足が深刻化したため、1987年から一人あたりの食糧配給量を1日700グラムから546グラムに減らした。しかし、1990年代中盤には年間の食糧生産量が350万トン程度まで落ち込み、大飢饉「苦難の行軍」に陥った。

一般住民は、家庭でトウモロコシ、コメ、麦芽などを使って酒を密造する。まずは米粉で培養した麹を、米粉で炊いたおかゆに混ぜて瓶に入れて発酵が進み、粘り気のあるおかゆのような状態「酒粥」になる。それを沸騰させて立ち上がる水蒸気を冷まして液体にすれば密造酒の完成だ。アルコール度数は40%ほどになる。

トウモロコシ1キロで約0.8リットルの酒ができる。トウモロコシ1キロと酒0.5リットルの値段がほぼ同じであるため、酒を作って売れば少しながら儲けが出るという計算となる。

厳しい取り締まりに、住民の間では「食糧事情が悪化しているのではないか」と不安心理が広がっているが、大飢饉「苦難の行軍」を経験しているため、常に最悪の状況に備えていることもあり、かつてのように多数の餓死者が出ることはないだろうと情報筋は見ている。