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だが、筆者は金正日政権の崩壊を準備することが、今後政府と知識人、研究所、市民団体が必ずすべきことだと信じる。
もちろん、私たちは今すぐ明日、来月、来年に、北朝鮮政権が崩壊すると予測することはできない。そうした予測ができる方法論も、またできる人もいない。それは、たとえ現在、北朝鮮の支配集団内で激しい権力闘争が起きているとしても同じだ。とはいっても、アメリカの北朝鮮問題の専門家であるエバシュタットは、金正日政権が2000年頃に崩壊するだろうという自身の予測が外れると、その理由をこのような種類の予測は科学(science)の領域ではなく、芸術(art)の領域に属するからだと長嘆した。
だが、金政権あるいは金政権の亜流が長期的な観点で崩壊するだろうという予測は誰にもできる。5年以内なら“もしかして”と言うが、10年以内ならば“たぶん”、そして15年以内ならば“違えば叙{の指にやきごてをあてる”と言う人が大部分だろう。そして、この点は現在、北朝鮮政権がある程度安定したように見えていても同じだ。長期的に、金政権が崩壊するだろうという点は、左・右、進歩・保守の理念と何の関係もない。
その理由は何だろうか。金政権は改革・開放をしても崩れ、しなくても崩れ、金政権をお金と物資で援助しても崩れ、援助しなくても崩れ、金正日が自分の地位を子供に譲っても崩れ、譲らなくても崩れるからだ。つまり、金正日政権は百薬が無効である病にかかり、まさに金政権自体が病であるからだ。なぜだろうか。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮は90年代の中、後半のいわゆる‘苦難の行軍’の結果、ヨーロッパの産業革命に劣らない国「的変化を経験した。まず、’苦難の行軍’をした主体は、金日成によって北朝鮮政権が樹立された後、今日まで北朝鮮を統治してきた支配集団ではなく、配給制に頼ってきた北朝鮮の人民だったという点が極めて重要だ。その結果、好衣好食の支配集団は -たとえ党より軍が優先視される先軍政治をうち出したとしても- 変わらなかったが、配給を待って飢え死にした北朝鮮の基層勢力は変わらざるを得なかった。すなわち、中国との密貿易と市場を通じて、生存の基盤を自ら構築しなければならなかったのだ。
一方、支配層はよい先祖に会って得た絶妙な地政学的位置をバックにし、‘勝手にしなさい’ といったふうの脅迫を通じて外部の援助を脅し奪い、その分配を掌握することで、過去の統制経済の時期の支配力に代置する手段をとった。これが金正日のいわゆる’広幅政治’(懐が大きな政治)だ。
もちろん、北朝鮮の支配集団と基層集団の‘物質生産基盤’は、全く異質なものが互いに連関関係を結んでいる。援助物資は支配層と軍隊にまず分配されるが、経済の循環過程で、上から下に落ちることもあるはずで、また基層人民に市場を通じて販売されることで、供給不足の北朝鮮の社会を維持するのに決定的に寄与している。また、市場を通じた家内生産品と密輸品の流通は、規制権を持っている高くて低い権力者たちにわいろが支払われ、支配勢力の維持 ・ 安定に寄与している。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面敢えて言うとしたら、北朝鮮の支配集団と基層集団の間に、物質生産において良く言えば‘役割分担’が生じたのだ。そして、北朝鮮の現地から出る互いに相異なる2つの絵、すなわち活力と無気力、困窮と余裕は支配集団と基層集団の間の一時的均衡に基づいたものだと思われる。
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だが、脅して奪った外部の援助を着服、分配、流通する支配集団と、自らの努力によって価値を新たにつくっている基層集団の間の均衡は長続きしない。外部の援助の長続きは、外部の政治経済的環境に頼るしかないからで、変わらない環境はないからだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面脣亡歯寒(唇が滅びれば歯も寒い)の関係にあるという北朝鮮と中国も、決して変わらない自明な公理ではない。中国が金正日政権の崩壊による北朝鮮の混乱を恐れる公式的な理由は、第一に中国にあふれる難民による負担、第二に東北3省の混乱そして最後に北朝鮮という緩衝地帯の喪失だ。
だが最近、アメリカ平和研究所から出た報告書で、中国の北朝鮮専門家の発言を伝えたものを見たら、中国人民解放軍(PLA)は緩衝地帯として北朝鮮の役割に対して、冷戦時代のように大きな比重を置いていないという。ひいては、北朝鮮に危急の事態が発生した時の、北朝鮮の難民に対する憂慮も実は検証された仮説ではない。北朝鮮の軍部の内乱事態が長期化するだろうという理由も不確実な上に、内乱がなく、直ちに救護と援助と希望が北朝鮮に投入されたら、中国に押し寄せるのは難民ではなく、お金が多い支配集団の亡命かも知れない。
したがって万が一、国連と関連国によって、北朝鮮事態が鎮まるという確信が生じたら、中国政府は未来が全くない金正日政権に自らの未来を任せる理由がないのだ。
もう一方で、韓国の北朝鮮への援助は李明博政府が出帆し、量的、質的に過去10年の慣行は変わるしかないだろう。特に、北朝鮮が核を放棄しないことがほとんど明らかな現状態で、北朝鮮に無条件与えることは不可能だ。
すなわち、外部の変数に頼っている北朝鮮の支配集団は、外国の援助が減ることで存在の意味を喪失する危機に直面するだろう。北朝鮮の現実に精通した消息筋によれば、盧武鉉-金正日会談の時に、北朝鮮の米の価格がかなり落ちたという。すなわち、南側から何やら贈り物を持って来るはずで、それは米であるはずだから、それならば供給がもっと増えるはずだという判断の下で、対象(貿易商人)たちがあらかじめ米を出して利益を得ようとしたからだというのだ。それは北朝鮮の基層集団が、支配集団をどのような目で見ているのか、如実に見せてくれた実例だ。すなわち、北朝鮮の支配集団は何かを持って来る時だけ、存在の意味を与えられるのだ。
だが、援助が現状態で維持されるとしても、上で述べた’均衡’が維持されるわけではない。なぜならば、市場経済は北朝鮮のように供給不足の状況では、本質的に膨脹の方向に流れるしかない。なぜならば、市場を通じて発揮することができる生産力が、現在充分に実現していないという点が分かっているからだ。だが、支配集団は基層集団の生産力の拡大を認めることができないでいる。なぜならば、相対的に自分の存在の意味が喪失するからだ。したがって、北朝鮮の支配集団は、できれば市場の生産力を一定の水準以下に抑制するだろう。盧-金会談直後に、市場で商売することができる女性の年齢を50歳以上に制限したのも、こうした観点から充分に理解される。
外部の援助が増えても、北朝鮮の支配集団には未来がない。アン・ビョンジク教授の言葉のように、“ごろつき集団”がむだ飯を食べることができる時、自らの革新は考えることもできないからだ。金正日もこの点をよく分かっている。まさに、そうした理由から、金正日は過去のように国家が働き口を提供するように、工場を可動させることを願っているのだ。盧武鉉政権時代に、京義線の試験運行を言葉尻に、軽工業の原資材を-例えばくつの生産のための-要求したことも、統制経済に回帰しようとする試みと見られる。
開城工団の機狽燻翌トいる。自ら工場を建てて稼動させる能力がないから、韓国の企業に人力をまかなって統制しながら、国家の経済への介入を増やそうとしているのだ。更に、公式な為替と市場為替の大きな差を利用して、北朝鮮の勤労者の賃金を大部分横領することで、一石二鳥を狙っている。
だが、北朝鮮が一時統制経済を運営することができたのは今からほとんど20年前、社会主義ブロックが存在した時だ。現代の経済で複雑な分業体制を成していて、社会主義でも、資本主義でも外国に対して開放が前提されていない場合、本格的な工業の生産を実現するのは事実上不可能だ。
したがって、北朝鮮が20年間手を放していた生産体制を、外国から多くの援助を受けて整備するということ自体が、改革開放を意味する。
しかし、改革開放は北朝鮮の支配集団の力を育てるよりも、自生的な市場経済で暮らしている北朝鮮の基層集団の力を爆発的に育てるはずであり、金正日政権が滅びる道であることは、誰よりも自らが分かっている。(2編に続く)