北朝鮮で公開処刑が再び常態化している。牛肉の密売や医薬品の横流し、韓流コンテンツの販売など、かつてであれば労働鍛錬刑や罰金で済んだ行為が、近年は死刑にまでエスカレートしている。1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」期に横行した“見せしめ処刑”が、再現されているかのようだ。
背景には、慢性的な外貨不足と物資欠乏がある。国連制裁の長期化に加え、中国経済の減速、ロシアとの軍事協力に依存した歪な外貨獲得構造が、経済の脆弱化を加速させている。金正恩総書記は引き締めを強化し、経済失策の責任を現場幹部に転嫁する形で恐怖統治を強めている。
象徴的なのが、2023年10月に明らかになった平壌の貿易会社幹部3人の公開処刑だ。表向きの理由は、党資金の未納だった。家宅捜索で大量の金塊と外貨が発見され、「国家資産の横領」と断罪された。財産は没収され、家族は地方へ追放された。
だが、貿易関係者の間では納得の声はほとんどない。貿易幹部が一定の私財を築くことは半ば黙認されてきた慣行であり、金塊保有だけで死刑というのは過剰だとの見方が強い。貿易会社の関係者は「貿易を行っている人で、(公式許可を得た荷物の中に)個人的に売る品物を挟み込まない人がどこにいる。今回の処刑は理不尽で残酷だ」と怒りを示す。
(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇)
2026年の視点で見ると、この事件は、金正恩政権が「国家唯一貿易体制」の再構築を本格化させる転換点だったといえる。コロナ後に貿易が再開されると同時に、中央集権的管理が徹底され、地方や各機関の独自貿易は強く制限された。その過程で、見せしめとしての処刑が利用された可能性が高い。
しかし、国内生産力は低く、市場に流通する商品の大半はいまも中国製だ。輸入を断てば経済は即座に停滞する。それでも政権は「輸入病」の克服を掲げ、統制を強め続けている。その結果、経済活動は萎縮し、幹部も商人も、いつ自分が粛清されるか分からない恐怖の中で生きている。
処刑が日常化する社会は、体制の安定ではなく、むしろ限界を映し出している。恐怖による支配が続く限り、北朝鮮の閉塞は深まる一方だ。
