金正恩総書記が、海外に派遣された北朝鮮軍兵士について「いかなる報酬や対価、利害関係もなく戦場で戦っている」と執拗に繰り返している。今月16日、平壌の金日成競技場で開かれた社会主義愛国青年同盟(青年同盟)創立80周年記念大会での演説での発言だ。約1カ月前、ロシアに派遣された工兵連隊の帰国歓迎式でも同様の表現が使われており、「無報酬派兵」が単なる象徴的修辞ではなく、現実を反映している可能性が強まっている。

金正恩は演説で、派兵兵士について「いかなる対価もなく、ただ祖国の命令に忠実であろうと、遠く離れた異国の戦場に赴き、青春を惜しみなく捧げている」と述べた。さらに「世の中に、わが軍人たちのように、いかなる報酬や個人的利害関係もなく戦場に出て、祖国の名誉と尊厳を守り、命令に忠実に戦う兵士はいない」と強調し、「彼らが望むのは報酬ではなく祖国の繁栄だけだ」と語った。

無報酬への執拗な言及は、派兵兵士に現金補償はない、あるいは支払われないことを最高指導者自らが事実上明言したものではないのだろうか。

北朝鮮がロシア派兵を通じて期待していた経済的・物質的対価の回収が、当初の目論見通りに進んでいないとの情報もある。だとすれば、金正恩氏は自らの見込み違いのツケを、国民に押し付けていることになる。

(参考記事:「迷惑だ」プーチンからの贈り物に北朝鮮国民ブチ切れ

韓国の独立系メディア「サンドタイムズ」などの報道によれば、北朝鮮は派兵の見返りとして外貨収入や物資、技術支援などを見込んでいたが、実際にはロシア側からの支払いが遅延、あるいは大幅に縮小している可能性が指摘されている。ロシア側が「実績」や「戦果」を理由に対価の履行に消極的になっているとの内部情報もあり、北朝鮮当局内では計算違いとの不満が出ているという。

こうした状況を踏まえると、金正恩政権が「無報酬の愛国的献身」という言葉を繰り返し強調するのは、対価回収の失敗に対する責任を曖昧にし、派兵をめぐる不満の矛先をそらす狙いがあるように見える。仮にロシアから一定の見返りが支払われていたとしても、それが兵士個人に分配されず、国家や軍上層部に吸収されている可能性も否定できない。

一方で、この説明が北朝鮮社会で無条件に受け入れられているわけではない。派兵軍人やその家族の間では、「ロシアに行けば生活が改善すると思っていた」「何も残らなかった」といった失望や疑念がくすぶっているとされる。体制が描く「栄誉ある献身」と、生活実感との乖離が徐々に意識され始めているのかもしれない。