米国がベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を拘束し、ニューヨークへ移送した事件をめぐり、北朝鮮当局が内部講演を通じてこれを「米国の不良国家的行為」と非難し、核武力強化の正当性を改めて強調していたことが分かった。ただし、講演に参加した住民の関心は当局の狙いとは異なる方向に向いていたという。
咸鏡南道のデイリーNK内部筋によると、今月5日午後、咸興市内で教員を対象とした講演会が開かれた。講演の主題は「核武装の正当性」で、講演者は米国によるマドゥロ大統領の拘束に言及し、「これは明白な主権侵害であり、米国の不良行為だ」と強く非難。「我々は国力が強いため、米国のいかなる脅威にも屈しない」と訴えたという。
講演ではこれに続き、「世界各地で紛争と米国の侵略行為が激化している以上、われわれは核武力を千倍、万倍に固めなければならない」との常套句も繰り返された。
しかし、講演の場で目立ったのは、核武装論への共鳴よりも、マドゥロ拘束そのものへの関心だった。情報筋は「繰り返される核正当化の話よりも、『実際に何が起きたのか』という国際情勢への興味の方が強かった」と証言する。
同様の趣旨の講演会は、咸興青年電機機構工場でも行われたとされる。参加した若者たちの間では、「一国の大統領を本当に拘束できるのか」「もし事実なら、米国はやはりとてつもなく力のある国だ」と興奮した声が漏れたという。北朝鮮当局はこのところ、ロシアの協力拡大を自賛する講演を繰り返しているとされるが、その会場では見られない反応だ。
(参考記事:「迷惑だ」プーチンからの贈り物に北朝鮮国民ブチ切れ)
情報筋は「教員も青年も、聞き慣れた政治的スローガンにはほとんど関心を示さず、事件の事実関係に耳を傾けていた」と指摘。「結果的に今回の講演は、当局の意図とは逆に、米国の圧倒的な力を住民が再認識する場になったようだ」と語った。
北朝鮮は、マドゥロ大統領拘束の直後、対外向けメディアである朝鮮中央通信を通じ、外務省報道官の談話形式で米国を厳しく非難。「米国の不良国家的かつ野蛮な本性を示す新たな事例だ」とし、国連憲章と国際法への重大な違反だと糾弾した。
一方で、労働新聞や朝鮮中央テレビといった国内向け媒体では、ベネズエラ情勢をほとんど報じていない。それにもかかわらず、内部講演では同事件を積極的に取り上げ、核開発の正当性を説く材料として利用している実態が浮かび上がる。
さらに中国との国境地域では、外部情報を通じて事件を知った住民の間から、「米国が他国の大統領を拘束するようなことは、我が国では絶対に起きない」「核を持っているからこそ、米国も恐れて手を出せない」といった反応も出ているという。
