北朝鮮の金正恩総書記を取り巻く警護体制が、再び緊張感を強めている。韓国の独立系メディア「サンドタイムズ(ST)」は、最近開かれた朝鮮労働党第8期第13回中央委員会総会で、金正恩の最側近警護員が軍服姿で登場した点に注目し、「異例の変化」と伝えた。

これまで金正恩の近接警護は、スーツ姿で目立たない存在感を保つのが常だった。だが、今回の総会では、将官級階級章を付けた軍服姿の警護員が車のドアを開け、会場入口まで密着して同行する様子が朝鮮中央テレビで確認された。軍服着用の将官級警護員が公式映像に登場するのは初めてとされ、韓国当局も動向を注視している。

金正恩の警護スタイルは、政権発足以降、情勢に応じて変遷してきた。執権初期には自動小銃で完全武装した軍服姿が一般的だったが、2018年の南北首脳会談を機に「平和演出」が前面に出され、警護員は一斉にスーツ姿へと転換した。以降、武器を衣服の内側に隠し、素手で取り囲む姿が常態化していた。

しかし、その流れに変化が見え始めたのが2022年夏だ。日本で安倍晋三元首相が銃撃されてから約20日後に開かれた北朝鮮の全国老兵大会では、金正恩の背後に複数の警護員が異例なほど密着する様子が公開された。翌年4月には、岸田文雄首相を狙った爆発物事件の直後、金正恩の行事出席時に「黒い警護用バッグ」を携行する警護員の姿が確認されている。これらのバッグは短機関銃の収納や盾として使えるとの分析がある。

偶然の一致とも言えるが、海外で現職・元首脳が襲撃されるたびに、金正恩の警護が一段階引き上げられてきた点は否定できない。STは、こうした動きが「国外要因による暗殺リスク」を北朝鮮指導部が強く意識している表れだと指摘する。

北朝鮮は今や、ウクライナ戦争の当事者であり、ウクライナ側の標的となる蓋然性はすでに存在する。実際、昨年秋、ロシアへの派兵決断前後には、特に警護が先鋭化した。これは、派兵に対する国内の反発を憂慮したためでもあったかもしれない。

(参考記事:「ロシアに裏切られた」北朝鮮国民が悲鳴…食糧難で”経済崩壊の予兆”

この当時の特殊部隊訓練視察では、完全武装した軍服姿の警護員が銃口を下げたまま周囲を警戒する異様な光景が演出された。国情不安と権力内部の引き締めが、金正恩自身の「身の安全」への警戒心を強めているとの見方が広がる。

平壌や専用別荘地に行動範囲を限定し続ける金正恩の動線も、こうした警護思想の延長線上にある。STは「警護の変化は体制の自信と不安のバロメーターだ」と指摘する。軍服への回帰は、北朝鮮指導部が再び“非常時”を想定し始めた兆候なのかもしれない。