北朝鮮の金正恩総書記の娘、ジュエさんが公開の場に姿を見せなくなってから、今日で84日となった。3年前に登場して以降、最も長い「潜伏期間」だ。2023年に70日間、昨年には82日間の空白期間があったが、当時はそれを怪訝に思う向きは少なかった。しかし、今回は違うようだ。

今回、ジュエさんの姿が最後に公開されたのは9月5日、中国の抗日戦争勝利記念行事に出席後、父親とともに専用列車から降り立ったときだった。金正恩氏が習近平国家主席、プーチン大統領という世界の超大物と肩を並べたこの行事は、北朝鮮にとって歴史的な出来事だったはずだ。北朝鮮メディアが、娘の参加も強調しつつプロパガンダを展開してもおかしくはない。いや、その方がむしろ自然だ。

しかし、そういった動向はまったくうかがえない。

そもそも北京において、ジュエさんの姿はメイン行事である天安門での閲兵式をはじめ、記念晩餐会、中朝首脳会談など公式行事でどこにも認められなかった。国家情報院によると、ジュエさんは中国滞在中、大使館に滞在して外出を控え、最終日も専用列車に先に乗り込み金正恩を待っていたという。

帰国後、金正恩氏の公開活動は約3カ月間で40回を超えているが、ジュエさんの姿は公開されていない。特に、今年の北朝鮮にとって最大の政治イベントであったはずの朝鮮労働党創建80周年(10月10日)記念行事にさえ、彼女の姿は見られなかったのだ。

こうした動向を受けて、「さまざまな憶測が飛び交っている」と韓国の独立系メディアであるサンドタイムズ(ST)は報じている。

STは「外交筋の一部では、9月の中国訪問時に何らかの“ハプニング”が起きた可能性を提起している」として、「北京の外交消息筋」の次のような話を伝えた。

「中国側は抗日戦争勝利記念の日に集中すべき世間の関心が別のところに分散することを望まなかった」「金主愛の登場に不快感を示したと承知している」

また、「幼いキムジュエが厳粛な外交の場で突発的な行動をして問題になった、あるいは外交儀礼に反する行為があって後味の悪い話が出たという主張もあるが、確認は難しい」ともしている。

さらには、「一部では『内部世論の悪化』を指摘する声もある。キムジュエが登場のたびに身につけていた高価なファッションアイテムや、年齢にそぐわない服装や行動が、生活苦に苦しむ一般住民だけでなく、政権エリートの反感を買っているというのだ」とも伝えた。

(参考記事:「金正恩の娘は国産の服を着ろ」反発強める北朝鮮の若者たち

中国当局がジュエさんの動向をどう思ったかは知る術もないが、これまで公開されたジュエさんの振る舞いを見る限り、「突発的な行動」を取ったという説は簡単には信じられない。また、金王朝のメンバーらが高価な品々を身につけ、国民の反感を誘ったのは今に始まったことではない。

ジュエさんの雲隠れが長引いている理由は、もっと他にあるかもしれない。