ドナルド・トランプ米大統領が先月、「韓国の原子力潜水艦(原潜)建造を承認した」と表明してから、両国の間で波紋が広がっている。トランプ氏が「潜水艦は米国内で建造される」とSNSで発言したのに対し、韓国政府は「首脳間では韓国で建造する方向で議論した」と反論。安全保障上の協力をうたいながら、計画の根幹となる「建造地」を巡って早くもズレが表面化している。

商務省が主導する「米国内建造」論

トランプ氏は、10月末の米韓首脳会談後に「韓国の有力造船企業がフィラデルフィアで原潜を建造することを承認した」とSNSに投稿した。米商務省も同調し、「米造船所の再活性化につながる」と米国内建造を後押しする姿勢を示している。

これに対し、韓国大統領室は7日、「原潜の船体は韓国で建造する方針だ」と明言。李在明(イ・ジェミョン)大統領が会談の際、「我々が韓国で建造する」と明確に述べたと説明した。大統領室関係者は「ファクトシート(共同説明資料)の最終調整が遅れているが、安保分野の文言調整に時間がかかっている」と述べ、米側との隔たりを認めた。

韓国国防部関係者によれば、米商務省は「自国造船所での建造を通じて投資と雇用を確保すべきだ」との立場を強めており、これが両国の調整を難航させているという。米国のハワード・ラトニック商務長官も、「トランプ大統領はフィラデルフィアでの原潜建造を承認した」と強調した。

一方、韓国の安圭伯(アン・ギュベク)国防部長官はテレビ討論で「米国は単なる支援ではなく、積極的な支援を約束した」と述べたが、国防部は直後に「国内建造を指したものではない」と発言を訂正。米韓の溝が改めて浮き彫りとなった。

建造費は1隻45億ドル超 財政圧迫も

米海軍のバージニア級原潜の建造費は1隻あたり40〜45億ドル(約6,000億〜6,800億円)、年間維持費は最大1億ドルに達する。韓国の年間国防予算約440億ドルに比べれば、1隻でその1割以上を占める規模だ。仮に米国内での建造が現実化すれば、輸送費や技術移転費用を含めてさらに膨張するのは避けられない。

韓国の造船業界関係者は「原潜を米国で建造することになれば、国内造船技術の自立という目的が失われる」と懸念を示す。一方、米議会内では「雇用と造船所の維持」を理由に、米国内建造を支持する声が根強い。

(参考記事:韓国専門家「わが国海軍は日本にかないません」…そして北朝鮮は

米海軍内部では、すでに有人プラットフォームである原潜への依存を減らし、「超大型無人水中システム(XLUUV)」への転換を求める動きも出ているとされる。建造費40億ドルを超える原潜よりも、1隻5,500万ドルの無人ドローンを大量運用する方が効率的との判断だ。

韓国の元国会議員キム・ジョンデ氏はハンギョレ新聞への寄稿で「米国の軍産複合体には、このような韓国の(原潜)計画を拒否する理由はない。核燃料の供給をエサとして韓国の潜水艦の一部でも米国の造船所で作らせることができるなら、議会も無理に国防予算を増額しなくて済む」と述べている。つまりは、トランプ氏による「承認」は、米軍産複合体が原潜を韓国に「売りつける」構図につながるとの指摘だ。同氏はまた、高価な原潜を導入しても、核抑止力を持たない韓国では実効性が乏しいと批判している。

「2030年代進水」計画も揺らぐ

韓国政府は当初、2030年代半ばの原潜進水を目標に掲げていた。だが、技術移転や核燃料供給をめぐる合意が遅れれば、スケジュールの見直しは不可避とみられる。加えて、インフレによる製造コスト高騰も重くのしかかる。

専門家の間では、「原潜建造に固執するより、AIとドローン技術を基盤とした分散型の海洋防衛戦略に転換すべきだ」との声も強い。朝鮮半島周辺の浅い海では、巨大潜水艦よりもセンサー網と無人機の方が実戦的だという。

今回の原潜計画は、米韓同盟の象徴となるか、それとも高コストの「空転プロジェクト」に終わるのか。

米国は産業振興の思惑を隠さず、韓国は主権的建造を主張する。両国の利害が一致しない限り、原潜計画は「政治的リスク」として長期化する可能性が高い。