北朝鮮で、深刻な生活難に追い詰められた住民が「最後の手段」として金(きん)の採掘に従事し、相次いで命を落とす痛ましい事故が発生している。安全設備も管理体制も不十分な違法採掘場で、わずかな現金や食糧を得るために命を賭ける住民が増えているという。

北朝鮮内部事情に詳しい平安南道の情報筋がデイリーNKに語ったところによると、「最近、平安南道の一部郡で生活に困窮した住民たちが、食料を確保するために金鉱に出かけたが、採掘場の崩落事故で死亡する事件が起きた」という。

北朝鮮では市場での商売を通じた生計維持が次第に困難になり、現金収入を得る手段が限られている。こうした中、「元手がかからず、日払いで報酬がもらえる」金採掘に多くの人が流れ込んでいるという。

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情報筋によれば、これまでは主に男性が金を掘っていたが、最近では女性の比率が急増。未婚女性から子どもを持つ母親、さらには50~60代の中高年女性まで、年齢を問わず「生きるために」金採掘場へ向かうケースが目立っている。

平安南道会昌郡では今月20日、金鉱の一部が崩落し、夜間に作業していた住民3人が命を落とした。彼らは「もう少し掘れば金が出る」と深夜に作業を続けていたという。その中には3歳の子どもを持つ女性もおり、地元では「母親を亡くした幼子の行く末を案じる声」が広がっている。

情報筋は「母親が生きていても食べられず衰弱する子どもが多いのに、母親を失った子がどう生きていくのか」と語り、住民たちは深い悲しみに包まれているという。

また、両江道恵山市の大鳳(テボン)鉱山でも22日、30代の女性が採掘場崩壊事故で死亡した。この女性は結婚2年で離婚し、極度の生活難から知人と共に金採掘に出たが、不運にも命を落とした。彼女の両親は「貧しさのため娘を失った」と自責の念にかられ、体調を崩して寝込んでいるという。

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両江道の別の情報筋は、「いま金を掘る人々は皆、生き延びるための決死の選択をしている。しかし現場では安全対策など存在せず、注意喚起の言葉すら形ばかりだ」と指摘した。

北朝鮮では近年、経済制裁と貿易縮小、物価高騰が重なり、一般住民の生活は急速に悪化している。違法採掘による事故は以前から発生していたが、今年に入ってからはその頻度が明らかに増えており、命を代償とする“金の争奪戦”が国の各地で広がっているという。