北朝鮮北部・両江道恵山市の市場(ジャンマダン)で、国家密輸を通じて持ち込まれた海外ブランドのダウンジャケットが富裕層の間で人気を集めている。価格は庶民の数か月分の生活費に相当するが、経済格差の拡大を象徴する現象とみられる。
現地消息筋によると、最近の急な冷え込みを受け、恵山市の市場には多種多様な冬用衣料が出回り始めた。中でも「韓国製」「日本製」「米国製」とされるブランド品のダウンが人気で、1着あたり3000元(約6万5千円)を超える高値で取引されているという。
市場では現在、フィラ(Fila)、デサント(Descente)、ポロ(Polo)などの海外ブランド品が並ぶ。だが、その大半は中国で商標を模倣した偽ブランド品であり、実際には正規品ではない。密輸業者や卸売業者は「本物」と称して小売業者に高値で売り渡し、消費者には“舶来高級品”として販売しているとされる。
こうした模倣ブランドのダウンは恵山市場で1着3000元を超える価格ながら、富裕層の間では売れ行きが好調だ。3000元といえば、北朝鮮で米750キロを購入できる金額に相当し、一般住民にとっては到底手の届かない高級品である。
特に、富裕層の中でも上位に位置する「トンジュ(金主)」と呼ばれる新興資本家層は、中国の取引業者に直接連絡を取り、1万元(約215万円)を超える量の正規品の海外ブランドダウンを取り寄せているという。
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北朝鮮富裕層が海外ブランド衣料を好む背景には、衣服を通じて経済力や社会的地位を誇示する心理があるとされる。消息筋は「数年前まではデザインや生地を見て服を選んでいたが、最近は“どんなブランドか”が最も重要になった」と指摘。「海外の富裕層が着るブランドと同じものを身につけることで、見えない序列を示そうとしている」と語った。
(参考記事:「金正恩の娘は国産の服を着ろ」反発強める北朝鮮の若者たち)さらに、かつては監視を恐れて慎ましい服装を装っていた富裕層の間でも、今は「服装で自らの成功をアピールする」傾向が強まっているという。「監視を気にして地味な服を着る時代は終わった。今は誰もが自分の富を控えめに誇示するようになっている」と消息筋は話した。
この流行を受け、北朝鮮国内の縫製業者も人気ブランドのロゴを模した偽ダウンの生産に乗り出している。見た目は本物と区別がつかないほど精巧で、価格も200〜500元(約4千〜1万円台)と手頃なため、庶民層の間でも“ブランド風”ファッションが広まりつつある。
北朝鮮では経済難が続く一方で、富裕層の消費は拡大しており、恵山市場における“海外ブランドブーム”はその格差の象徴となっている。
