韓国の李在明政権が南北融和路線を鮮明にする一方、北朝鮮の人権問題を軽視する姿勢を強めている。韓国統一省は4日、南北対話や経済協力機能を大幅に復元する一方で、拉致被害者や人権問題を担当していた部門を縮小・統合する組織改編を正式に施行した。

先月15日から27日にかけて予告されていた「統一省および所属機関の職制施行令」改正案がこの日、官報に掲載され、即日施行された。これにより、南北会談を担当する「南北会談本部」と、南北経済協力を推進する「平和交流室」が復活。文在寅政権期に中断された開城(ケソン)工業団地関連業務を担う「平和協力地区推進団」も再設置された。

一方で、尹錫悦前政権下で強化された北朝鮮人権関連の部署は大幅に後退した。北朝鮮の人権問題を専門に扱っていた「人権人道室」は廃止され、「社会文化協力局」へ再編。さらに、拉致被害者問題を担当してきた長官直属の「拉致者対策チーム」も解体され、その機能は新設の「離散家族・拉致者課」に統合された。実質的に、北朝鮮当局による人権侵害や拉致被害への政策的対応が後退する形となった。

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改編後の統一省は定員を67人増員し、総勢600人体制となった。高級公務員職も18から20ポストに拡大し、組織規模は過去最大となった。李政権はこれを「平和共存のための南北関係正常化」と位置づけており、鄭東泳統一相は「組織の拡大は単なる人員増ではなく、李在明政権が朝鮮半島の平和共存政策を本格的に推進するという明確な意思の表れだ」と強調した。

しかし、専門家の間では懸念の声が上がっている。韓国の保守系シンクタンク関係者は「李政権は北朝鮮との経済・政治的接触を重視するあまり、人権や拉致といった普遍的価値を後景に追いやっている」と批判する。実際、国際社会では北朝鮮の強制収容所や公開処刑、海外労働者の人権侵害が問題視され続けており、韓国がこの問題で沈黙することは「北朝鮮擁護」と受け取られかねないとの指摘もある。

李在明政権は「対話による関係改善」を掲げる一方、北朝鮮の核・ミサイル開発や人権問題に対しては事実上の「低姿勢外交」をとっている。今回の統一省改編は、南北融和の名の下に人権外交が後退した象徴的な一歩といえそうだ。