収穫期を迎えた北朝鮮・両江道で、国境警備隊の兵士による農作物の窃盗が横行している。兵士たちは夜間勤務の合間に稲やトウモロコシ、大豆などを盗み、知り合いの住民宅に預けたり、金銭と引き換えに売り渡したりしているという。だが、摘発の矛先は兵士ではなく、盗品を預かった住民に向けられ、理不尽な処罰が相次いでいる。

地元消息筋によると、国境警備第25旅団の兵士たちは勤務時間中に哨戒を怠り、農場に忍び込んで収穫物を袋に詰めて運び出している。盗んだ作物は「顔なじみ」の住民宅に持ち込み、一時的に保管してもらったり、直接販売したりするという。兵士と住民の間には、食事や荷物の預かりなどを通じて築かれた親しい関係が多く、こうした「なれ合い」が犯罪の温床となっている。

一方、農場から収穫物が消える事件が相次ぐなか、郡安全部は住民への夜間家宅捜索を強化。金正淑郡では今月初め、ある住民宅から穀物袋が見つかり、盗品隠匿の罪でその住民が懲罰施設に送られた。住民は「息子のような兵士が食べるために盗んだものを断れなかった」と弁明したが、かえって叱責を受けたという。

「盗みを働いたのは軍人なのに、責任を取らされるのは住民だ」との不満が地域に広がっている。農場関係者の中には「夜ごと兵士が出没し、見張りも眠れない」と訴える声もある。

背景には、国境封鎖による密輸の減少と深刻な食糧難がある。かつて兵士たちは密輸業者から賄賂を受け取り、その金で食料を買っていたが、密輸が途絶えた今、飢えをしのぐために盗みに走るようになった。食料だけでなく、地方住民にとって貴重な移動・運搬手段である自転車まで略奪の対象となっている。

住民の間では、兵士を「かわいそうだ」と同情する声がある一方で、「軍の規律が崩壊しているのに、上層部は何の統制も取らない」との批判も強い。軍紀の乱れと食糧難、そして理不尽な取締りが複雑に絡み合い、北朝鮮社会の疲弊を象徴する事件となっている。