北朝鮮のいわゆる「トンジュ(新興富裕層)」が近年、不動産投資を通じて莫大な資産を蓄積していると伝えられている。デイリーNKの内部情報筋によれば、平安北道新義州市では資金力のある住民が複数の住宅を所有し、高級な内装を施したうえで高値で転売し、利益を上げる動きが広がっているという。
国家の統制が厳しく、自由に商売の出来ない北朝鮮にも、金持ちになる方法はある。違法薬物の密売や密輸もそうだが、これは当局に摘発されると死刑になりかねない。比較的安全に大金を手にするためには、不動産投資が唯一にして圧倒的なビジネスであるようだ。
地元情報筋によると、新義州市のある50代のトンジュは現在、少なくとも3軒のアパートを保有している。彼は貿易会社に所属し、密輸取引に直接関与している人物で、新型コロナウイルス流行後に貿易が再開されるとともに外貨資産を急速に増やし、住宅建設事業への投資に乗り出した。その後、投資の見返りとして配分された住宅を転売して差益を得たり、賃貸収入を得るなどしてさらなる資産拡大を図っているという。
こうした動きは、金正恩政権が推進する住宅建設政策とも密接に関係している。北朝鮮当局は各都市で大規模な住宅建設を進めるなか、資金難を補うためトンジュらの投資を誘導し、その代わりとして住宅の優先配分権を付与しているとされる。形式上、住宅は国家所有であり個人売買は禁じられているが、実際には長年にわたって非公式取引が定着しており、住宅は実質的に私有資産として扱われている。
(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故)
両江道恵山市のある40代トンジュも、高額な自宅アパートに加え、2軒の住宅を所有している。密輸を通じて車両を輸入し巨額の利益を得たこの人物は、住宅建設事業に再投資し、得たアパートを高値で売却する機会をうかがっているという。恵山の情報筋によれば、同地域では「外貨をただ保有しているのは危険」という認識が広まり、外貨を住宅という実物資産に替える動きが加速している。
当局の住宅建設に資金を出すことで人気の高い低層住宅を優先的に配分される例も増加しているとされ、トンジュたちは転売や再投資を繰り返して不動産市場を実質的に掌握している。一方、一般市民は食料の確保にも苦しむ状況が続いており、社会の貧富格差は拡大の一途をたどっている。
情報筋は「庶民の生活はますます厳しくなる一方、トンジュは資産を増やし続けている。金を持つ者と持たぬ者の格差は天と地ほどの違い」と語る。住民の間では「コロナは貧しい者にとっては災難だったが、トンジュにとっては機会だった」「世の中は金持ちの味方だ」との嘆きも聞かれるという。
