北朝鮮が今月9日と10日、朝鮮労働党創建80周年を記念して開催したマスゲームと閲兵式をめぐり、韓国・東亜大学のカン・ドンワン教授が「これほど残酷で恐ろしい夜はなかった」と批判する寄稿文を、韓国デイリーNKが公開している。

北朝鮮のマスゲームをめぐっては、かねてから人権侵害が指摘されている。教授は今回の行事についても「独裁体制の極致を示す人権蹂躙の現場」と断じ、特に児童や学生を動員した点を強く非難した。

5年ぶりに再開された今回のマスゲームは、従来の「アリラン」公演とは異なり、金日成の抗日闘争などの歴史的内容が完全に排除されたとされている。舞台の冒頭には金正恩が掲げた「新時代5大党建設路線」が掲げられ、ラストには「金正恩朝鮮よ、永遠に繁栄せよ」というスローガンが登場した。教授は「マスゲームは金正恩の業績で始まり、金正恩朝鮮で終わった」と述べ、最高指導者個人を偶像化する色彩が一段と強まったと指摘した。

金正恩総書記は公演中、実に10回も親指を立てて満足の意を示した。カン教授は「金正恩がこれほど多く“サムズアップ”した例は過去にない」としたうえで、「外国人観光客向けの外貨稼ぎ手段としても、この演出を継続する可能性がある」と分析している。

しかし教授が最も強調したのは、動員された10万人超の市民、特に児童・生徒の人権侵害だ。「金正恩に忠誠を叫びながら走る子どもたち、背景のカードセクションを演じる中高生の姿は、1年以上にわたる訓練の果てに人間性を奪われた象徴だ。もし自分の子どもがその場に立たされていたとしても、なおこの体制を称賛できるのか」と問いかけた。

(参考記事:北朝鮮の中高生「残酷な夏休み」…少女搾取に上納金も

前述したように、こうした批判は以前から根強くあった。2000年10月には訪朝したオルブライト米国務長官(当時)が、金正日総書記(同)とマスゲームを見た後、同行記者団から感想を求められて「amazing(驚いた、すばらしい)」と答え、米国内で強い批判を浴びたエピソードもある。

閲兵式についても、教授は「数時間に及ぶ豪雨の中、兵士も観衆も立ち尽くしていた。最新兵器ばかりに注目が集まる一方、彼らの人権は地に埋められた」と批判。金正恩氏自身が後日の演説で「秋雨と冷たい風にもかかわらず」と語ったことからも、過酷な環境を認識していたと指摘した。

教授はさらに、「今回の二夜は、独裁者一人の宣伝のために多くの人間が機械の部品のように使い捨てられた、最も残酷で非人間的な時間だった」と総括。「世界で最も奇怪で残忍なショー」だと断罪した。

最後にカン教授は、北朝鮮だけでなく韓国社会にも警鐘を鳴らした。

北朝鮮との融和路線を歩んできた与党・共に民主党の李在明政権は、北朝鮮に対する人権問題での批判を事実上、封じている。しかし同党は、韓国を軍事独裁から民主化に導いた「功績」を最大の資産としている。

カン教授は、「自由民主主義を掲げてきた韓国政府までもが、北の閲兵式を『内部行事』と軽視した。人権を叫んできた人々が、なぜ北の民の苦しみに沈黙するのか、不思議でならない」と問いかけている。