北朝鮮が10日夜、朝鮮労働党創建80周年を記念して平壌で大規模な閲兵式を行ったことを受け、国内では軍事力誇示を称賛する声と、生活苦との落差に嘆く声が交錯している。デイリーNKの現地情報筋によれば、テレビ中継を通じて閲兵式を見た平城(ピョンソン)市の住民の反応は「誇り」と「虚無」の間で大きく割れたという。
ある住民は「わが国が米国と堂々と対峙できるのは、核武力を絶えず強化しているからだ」と語り、制裁下でも軍事力を発展させる指導部の手腕を称賛。中には「米国も手出しできないほど我が軍は強大だ。金正恩元帥は偉大だ」と忠誠を誓う者もいたという。こうした肯定的反応は、「米国の脅威から祖国を守る核抑止力こそ正義」と繰り返し強調してきたプロパガンダの影響が大きいとみられる。
しかしその一方で、「軍事力が増しても暮らしはよくならない」「誰のための武器なのか」「まず食糧が必要だ」と冷ややかに受け止める住民も少なくない。日々の糧を得るのに苦労する庶民ほど、華やかな閲兵式映像に強い疎外感を覚えたようだ。情報筋は「閲兵式に参加した兵士も民の子であり、彼らを育てた人民が飢えている。生活苦を放置して軍事力ばかり誇示する当局に、ため息と憤りが広がっている」と語る。
(参考記事:飢えた北朝鮮の一家が「最後の晩餐」で究極の選択)平城市の60代男性は、「華やかな照明の陰で、腹をすかせて生きる人々の姿は誰も想像しないだろう。飢えた民の前で誰かが油の匂いを漂わせながらご馳走を食べているようなものだ」と苦々しげに語った。「祖父の代から“白米に豚汁を”が夢だったが、今も叶わない。年をとって自力で食料も得られず、子に頼るしかない現実がつらい」と訴える。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
情報筋は、「今後も当局が軍事力強化だけを唱え、生活改善策を示さなければ不満はさらに深まるだろう」と警鐘を鳴らす。「『腹をくくって核強国を築こう』というスローガンは、飢える民にとってはもはや空虚で、怒りをかき立てるだけだ」とも述べた。
北朝鮮指導部が国威発揚を狙って行った今回の閲兵式は、国内ではむしろ経済難と社会格差を浮き彫りにした形だ。派手な軍事パレードの背後で、「誰のための武器か」「先に食糧を」と嘆く民の声が静かに広がっている。
