北朝鮮は6日、旧正月と並び1年で最も大事な名節である秋夕(チュソク)を迎えるが、例年のようなにぎわいは見られない。物価の急騰により住民の購買力が著しく低下し、市場は閑散としているという。

デイリーNKの北朝鮮内部情報筋によると、両江道恵山市では、秋夕を目前にしても市場を訪れる住民の数が大幅に減っている。例年であれば秋夕の準備をしようとする人々で足の踏み場もないほどだったが、今年は雰囲気が一変したという。恵山市の一住民は「例年なら秋夕が近づくと市場が人でいっぱいになるが、今年はどこを見ても閑散としている。祭祀(チェサ)の準備をするだけでも最低50万ウォンが必要で、ほとんどの人が値段を聞くだけで帰ってしまう」と語っている。

北朝鮮では秋夕に祖先へ感謝を捧げる祭祀が古くから行われており、家庭では新穀で作った餅、肉、魚、果物、煎(チヂミ)、菓子などを供えるのが通例だ。しかし今年は物価が急上昇し、これらの食材をそろえるのが極めて難しくなっている。別の住民は「秋夕にちゃんとした祭祀をしないと祖先が怒って家に不運が訪れると信じている。だからどの家庭も本来は心を尽くして準備したいが、今年はあまりに物価が高く、準備する余裕がない」と打ち明けた。

恵山市の市場では現在、豚肉が昨年の3倍近くに値上がりした。リンゴやナシは、それぞれ昨年の1.5倍前後。祭祀膳に欠かせない輸入ソーセージ「カルパス」も昨年の2倍近くになったという。

このような状況の中で、今年の秋夕商戦は「史上最も冷え込んだ」とも言われている。恵山市で長年肉類を扱ってきた商人は「これまでは秋夕が近づくと、常連客だけでも売り切れるほどだった。しかし今は足を運ぶ人が激減し、在庫の肉を保管する費用ばかりかかる」と嘆いた。

物価上昇の影響は地方都市に限らず、平壌などの大都市にも及んでいる。米や油、砂糖など生活必需品も同様に値上がりしており、多くの住民が「名節といっても普段より少し多く食べる程度」と話しているという。

一方で、経済的に余裕のある富裕層の一部は、むしろ豊かな秋夕を楽しもうとしている。消息筋によると、「恵山税関や鴨緑江沿いの非公式ルートを通じて、中国から果物や加工食品が密かに持ち込まれている。資金力のある住民は商人を通じてこうした輸入品を購入し、豪華な祭祀膳を準備している」という。

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この結果、秋夕の祭祀膳にも「格差の象徴」が現れている。消息筋は「同じ秋夕を迎えても、ある人は高価な輸入品で祭祀膳を整え、別の人はまったく準備ができない。名節の食卓にまで貧富の差が表れる現実は、長年『平等社会』を掲げてきた国家の理念そのものを揺るがしている」と指摘した。

かつて北朝鮮は「すべての人が平等な社会」をうたい、国家が配給制度を通じて生活を保障していた。しかし市場経済の拡大とともに、住民の生活は個人の資金力に大きく左右されるようになり、地域や階層による格差は急速に広がっている。