金正恩総書記が肝いりで建設を進める平壌総合病院に、従来の診療科と並んで「中毒科」が設置されていることが分かった。韓国のシンクタンク「サンドタイムズ研究所」傘下のサンドタイムズは「麻薬中毒者を専門に治療する部門であり、北朝鮮社会に蔓延する薬物汚染の深刻さを裏付けるものだ」と分析している。
北朝鮮では慢性的な医薬品不足が続き、抗生物質や鎮痛剤を手に入れることが困難だ。そのため住民が覚醒剤やアヘン系薬物を常備薬のように使用してきたとの証言が相次いでいる。北韓人権情報センター傘下の「北韓麻薬類監視機構」の報告書によれば、住民の麻薬使用経験率は2000年代の7%から2016年には実に66.7%にまで急増。「馬鹿や虫けらでない限り、皆がやっている」との脱北者の言葉通り、薬物は社会全般に浸透している。

その背景には、国家ぐるみの麻薬生産がある。北朝鮮当局は1970年代後半から経済難に直面すると、武器や麻薬の密売に活路を求めた。興南や順川、上元万年などの製薬工場は合法的な製薬施設の顔を持ちながら、実際にはメタンフェタミンをはじめとする違法薬物を製造していたとされる。当初は外貨獲得を目的とした輸出向けだったが、一部が国内に流入。「苦難の行軍」時代には医薬品の代用品として急速に普及し、今や常習性の根を張ってしまった。
麻薬の拡散は社会を蝕んでいる。専門家は「メタンフェタミン乱用は心臓や血管の障害、骨や歯の損傷といった身体破壊をもたらすだけでなく、家庭崩壊や犯罪増加を招く」と指摘。一時的に覚醒作用で労働効率を高められても、依存が深まれば生産性は低下し、むしろ社会の崩壊を加速させるという。
当局は「麻薬流通者は処刑する」との布告を掲げているが、実効性はほとんどない。腐敗は司法機関や幹部層にも及び、取締りは見せかけに過ぎない。むしろ権力維持のために黙認し、放置しているとの批判が絶えない。
こうした中、平壌総合病院の「中毒科」は北朝鮮当局が麻薬汚染の存在を否応なく認めざるを得なくなった証拠といえる。看板は単なる診療科名にとどまらず、体制自らが育ててきた「中毒の影」を覆い隠せない段階に至ったことを象徴している。社会の深層にまで入り込んだ麻薬依存の問題は、北朝鮮の未来を脅かす最大の内なる爆弾となりつつある。
