北朝鮮・咸鏡北道の一部地域で、教員を対象に「人権」をテーマとした学習会が開かれていたことが20日、デイリーNKの報道で明らかになった。北朝鮮で公式的に「人権」が学習主題として取り上げられるのは極めて異例だが、そこで語られた内容もまた異様だった。
報道によれば、先月末、咸鏡北道茂山郡の一中学校で「人権は国権」という題目の定期学習が実施された。学習の中心は「国家がすべての人民に無償の教育・医療・住宅を保障することこそ社会主義的人権である」という内容であり、世界的に一般化している人権概念を社会主義制度の優位性に結びつけて説明する点に重点が置かれた。
学校長は世界人権宣言に規定された「表現の自由」「奴隷状態からの解放」「文化・芸術活動の自由」「宗教の自由」などに触れつつ、「これらは条約形式にすぎず法的拘束力はない」と主張。そのうえで「外国では金がなければ学校にも病院にも行けないが、我々の社会主義制度は誰でも教育を受け、無償治療を受けられる」と強調したという。
こうした学習の狙いは、体制の正統性を住民に再注入する点にあるとみられる。国が教育・医療・住宅を保障していることを「人権実現」として強調することで、体制への忠誠と結束を固める狙いが透ける。
しかし学習後、一部教員からは冷ややかな声が上がった。「地方の病院には薬がなく停電も多いため治療が受けられない」「教育も実際には負担が大きい」といった現実を指摘し、「我々にどんな人権があるのか」と疑問を呈した。ある教員は「事実上、発言の自由もなく我々は言うなれば“口のきける奴隷”ではないか」と辛辣に批判したという。
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その一方で、こうした発言が秘密情報網を通じて国家保衛省に通報され、処罰に繋がることを恐れる声も強かったとのことだ。北朝鮮では学習会や政治講習後に不用意な批判を漏らしたことで拘束・処罰される事例が少なくなく、教員たちも不安を隠せなかったとされる。
それでも中には「処罰が怖くて国家の制度について何も言えない社会に、果たして人権が存在すると言えるのか」と、あえて一歩踏み込んで批判する教員もいたという。
今回の事例は、北朝鮮当局が体制の正統性を「人権」という国際的概念に接続しようとする新たな宣伝手法の一環とみられるが、現場の教員の反応は必ずしも当局の思惑どおりではなかったことを浮き彫りにしている。
