北朝鮮が脱北者を防止するために中朝国境に埋設した地雷が、中国人住民の足を吹き飛ばすという事件が起きた。北朝鮮の一方的かつ無差別な軍事的措置が、ついに「血盟」と称される中国の一般市民にまで深刻な被害を及ぼしたのだ。韓国のシンクタンク「サンド研究所」が運営するメディア「サンドタイムズ」が報じた。
北朝鮮は地雷の設置を禁じている国際人道法(オタワ条約)に加盟しておらず、これまでも何度か地雷被害を起こしている。韓国との軍事境界線にも多数の地雷を設置しており、2015年には韓国人兵士2名が重傷を負う被害が起きた。
事件が起きたのは今月3日。中朝国境地帯で7月に起きた豪雨により、両江道の恵山一帯に脱北防止のために埋設されていた地雷の一部が流され、鴨緑江を越えて中国・長白地域まで流れ着いた。そして、地元に住む中国人がその地雷を踏み、足首を切断されるという重傷を負った。
北朝鮮は南北軍事境界線のみならず、近年では中朝国境沿いにも地雷や鉄条網を設置している。狙いは密輸や脱北を防ぐためだ。金正恩氏は、敵国と認定している韓国からの情報流入を「思想・文化的毒素」とみなして強く警戒しており、最も大きな流入口となる中朝国境の遮断を徹底している。そのせいで、地雷被害が無関係な中国人にも及んだのである。
中国の現地住民たちは「一体いつまで北朝鮮のせいでこんな被害を受け続けなければならないのか」「こんな国と同盟とは笑わせる」と憤慨し、地域の雰囲気は険悪になっている。昨年も洪水により北朝鮮住民が自国の地雷で被害を受けたが、同様の教訓を全く活かさず、再び無策な軍事優先政策が災厄をもたらした。中国当局も流出した地雷の拡散を懸念して住民に外出自粛を呼びかけるなど、異例の警戒態勢に追い込まれた。
2015年の南北地雷爆破事件では、南北対立が激化し軍事的緊張が高まった。韓国の朴槿恵大統領(当時)は北朝鮮の謝罪を断固要求し、韓国世論も朴大統領の強硬姿勢を後押ししたこともあり、北朝鮮は「遺憾の意」の表明――事実上の謝罪をさせられる結果となった。
一方、中国・習近平政権の対応が気になるところだが、積極的に動くことはないと筆者は見ている。ここ数年の中朝関係は冷え込んでいるとされるが、金正恩体制発足直後の2011年から2018年までの最悪の中朝関係と比べれば、それほどではない。そもそも習近平政権は、北朝鮮問題に関わってもそれほどメリットがないと見ているようだ。
自国民のみならず他国民も巻き添えにする金正恩政権の手前勝手な鎖国政策を、国際社会が糾さない限り、同様の被害を防ぐことはできないだろう。
