「この1週間、誰と会った?」

「訪ねてきた者は全員書き出せ」

北朝鮮国境地帯に住むある脱北者家族が、保衛員から突きつけられた“命令”だ。感興北道(ハムギョンプクド)のデイリーNK内部情報筋によると、国家保衛省(秘密警察)が最近、週に1度のペースで自宅を訪れ、紙とペンを手渡して「ブローカーが家に来ていないか」を徹底的に洗い出しているという。

「逃げ場はありません。保衛員は毎週金曜か土曜にやって来て、家族全員が監視されている感覚です。反抗すれば、どんな報復があるかわからない」(会寧市在住の脱北者家族の親族)

背景にあるのは、中国製携帯電話を使う“送金ブローカー”の摘発作戦だ。韓国や中国に逃れた脱北者が家族に送金する際、ブローカーを介して現金が北に届く仕組みになっている。これを北朝鮮当局は「残った根(잔뿌리)」と呼び、根絶を宣言。今月初め、保衛省は全土に「徹底掃討」を命じた。

しかし現場では摘発が進まず、焦り始めた保衛員たちは“手っ取り早い標的”である脱北者家族に狙いを定めた。ブローカーは取り締まりが厳しくなると一時的に潜伏し、摘発されても新しい携帯を買ってすぐ活動を再開する。当局はそれを止められず、家族を追い詰めることに血道を上げる。

(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為

両江道の恵山市でも同様のケースが報告されており、脱北者家族は「毎日が地獄」だと語る。

「情報員の尾行や盗聴は日常茶飯事。それに加え、毎週家に来て“誰と会ったか”を書けと脅される。反抗すれば『韓国のスパイ』とでっち上げられる危険もあります」(同前)

一方、国家保衛省内部では“成果至上主義”が横行しているという。「指示に成果がなければ、上層部からの叱責や処分が待っています。そのため保衛員たちは、より強引な方法に出る」(北朝鮮消息筋)

だが、ブローカー根絶は“絵に描いた餅”だと指摘する声も多い。送金は多くの北朝鮮家庭にとって命綱であり、ブローカーなしでは生きていけない人々がいるからだ。

「摘発されても次の携帯を買えばいい。それが現実です。いくら取り締まりを強化してもゼロにはできません」(前出の脱北者)

国家保衛省が恐怖と監視で国民を締め付ける一方、国境地帯では「息もできない」生活を強いられる脱北者家族の悲鳴がこだましている。