官憲相手に大立ち回りを繰り広げることも厭わない北朝鮮の女性も、家族を人質に取られては黙るしかなかった。
北朝鮮の「地方発展20×10」政策は、首都・平壌と地方との著しい経済格差がもたらす不満を解消するため、今後10年間、毎年20の市・郡に工場を新設するというもので、金正恩総書記が打ち出したものだ。
だが実際のところは、民間人が担っていた製造業を国が奪い返し、北朝鮮を中央集権的な社会主義計画経済体制に戻すという、復古主義的な政策の一環と見ていいだろう。
（参考記事：北朝鮮の新設工場が壊滅…金正恩「電力不足」理解せず）工場は建てたものの、資材もエネルギーも労働力も不足している。当局は「タダ働き」で労働力を確保しようとしたが、激しい抵抗に直面している。黄海北道（ファンヘブクト）のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
沙里院（サリウォン）市の女盟（朝鮮社会主義女性同盟）委員会は、女盟員（メンバーの女性）に対して、このように呼びかけた。
人気記事：「女性１６人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「当分の間、家を離れて他地域の原料基地建設に突撃隊として参加して欲しい」
原料基地とは、「地方発展20×10政策」に則って新たに建設した工場に原料を供給する畑や工場などを指す。資材の供給網が整っていないうちにメインの工場を建ててしまったようだ。
そこに「突撃隊」、つまりボランティアとして働きに行けということだ。呼びかけられたのが街頭女性（専業主婦）で、その多くが市場で商売をして、一家の生計を担っている人々だ。女性たちを市場から引き離す点で、中央集権的な社会主義計画経済体制への復帰の一環と言えよう。
人気記事：「女性１６人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面女盟は、原料基地の建設は道内の工場の原料確保のための朝鮮労働党の重要な政策事業だとして、家庭を持つ女性といえども党の政策に背いてはならないと、今月中旬から女性たちを説得し、突撃隊に送り込もうとしている。さらに、市内のすべての女盟員が交代で建設現場に行かなければならないとしている。
これに、女性たちは激しく反発している。
家族の食い扶持も燃料も不足している現状で、家族をほったらかして現場に向かうのは、想像を絶することだというのが、彼女らの言い分だ。
人気記事：「女性１６人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「ある除隊軍人の女性は、『まだ手のかかる子どもと夫を義母に任せて、突撃隊に嘆願しろとは理不尽だ』として、同じ考えを持った女性たちと共に、朝鮮労働党沙里院市委員会（市党）に信訴（意見）を出したが、それを受け取った市党から、むしろ党の方針に背いたと激しく批判された」
「市党は、今回の事案は道内住民の民生向上のためのことなので、道民である女盟員は皆が皆、建設に立ち上がらなければならない、女性だからと党の政策に背く権利はないと指摘した」（情報筋）
（参考記事：美女２人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた）
市党はそればかりか、信訴を出した女性たちが、突撃隊参加に反発した背景と、女盟における説得に問題がなかったかについての調査に入り、当該の除隊軍人女性の属する地域の女盟のみならず、町内の党委員会に対しても、責任を追及すると言い出した。
一連の計画は、上部組織の朝鮮労働党黄海北道委員会（道党）が考案したもので、女性たちを説得した上で参加させるとの意向だった。募集は女盟が行っていて党の指示であることは隠されていたが、市党の反応を見た女性たちは、裏に党がいることを知り、口をつぐまざるを得なくなった。
（参考記事：北朝鮮「国民の半分が飢えている」国連報告書が暴いた断末魔）春は、前年秋の収穫の蓄えが底をつき飢えに苦しむ「絶糧世帯」が多く出る、食糧事情がひっ迫する季節だ。女性たちは当局の弾圧にも負けず、市場やその周辺、路地裏などに店を広げ、食べ物を買うだけの現金収入を得ようと必死だ。
そんな窮状を無視して、ほぼ失敗したと言われている「地方発展20×10」政策に女性たちを駆り出し、その家族をさらに苦しめる。これが自称「地上の楽園」の残酷な春の光景だ。