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北朝鮮の市場はすっかり萎縮してしまった。

金正恩総書記は、民間人の手に奪われてしまっていた経済の主導権を取り戻すために、市場に対する規制を大幅に強化した。経済計画に基づいて国営企業が製造した商品を、国営商店が販売するという、1980年代以前に行われていた中央集権的な計画経済体制に戻そうとしているのだ。

同時に、貿易を制限し、ほぼ中国製が独占している生活必需品を国産品に戻すという取り組みも行っている。しかし、旧共産圏諸国もはるか昔に放棄した時代遅れ且つ失敗が明確な経済政策のせいで、北朝鮮の経済そのものが萎縮してしまう結果を生んでいる。

(参考記事:「生かさず殺さず」の経済システムで瘦せ細る北朝鮮の中間層

中でも市場の受けたダメージは大きい。

デイリーNK編集部は、平安北道(ピョンアンブクト)の内部情報筋を通じて、新義州(シニジュ)市内にある市場内部の写真を入手した。

空きテナントだらけの新義州の市場(画像:デイリーNK)
空きテナントだらけの新義州の市場(画像:デイリーNK)
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1枚目の写真を見ると、手前の左側にはプラスティック製の何かを売っている女性、右側にはトイレットペーパーと思われる製品を売っている女性の姿が写っているが、その奥の売台(ワゴン)には商人の姿も商品もなく、空きテナントだらけだ。

これは、午後3時の市場の開場時間の10分前に撮られたものだ。以前なら多くの商人が一気に押し寄せ、荷を解き、商品を並べる様子が見られた時間帯だが、今ではこの有り様だ。市場の現状を、情報筋は次のように説明した。

「人びとがお金を持っていないので、市場にやってくる客が減ってしまった」
「日が暮れると、市場の周辺の通りや路地奥で露天商が店を開く。市場は午後8時までやっているが客は来ない」

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北朝鮮の人々の多くが市場での商売で現金収入を得て、市場で食べ物や生活必需品を買っていたのだが、当局が市場での販売禁止品目を増やしたことで、商売ができなくなる人が続出した。収入源を絶たれた人々は生きるのに必死で、最低限のものしか買わなくなってしまった。商売を続けている人も収入が激減し、市場使用料が払えなくなった。

「人造肉(ソイミート)はここ(北朝鮮)で誰もが大好きな人気食品だが、よく売れていた商人ですら商売上がったりだと泣きっ面をしているのだから、それ以外の商人は言うまでもない。市場使用料がもったいなくて市場に出ない商人も多い」(情報筋)

市場の周辺で露店を広げて商売を始めたが、安全員(警察官)による無慈悲な取り締まりに追われながらの商売となった。

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当局は、国営企業や機関に勤める人の月給を10倍以上に上げて、国営商店で物を買うように誘導したが、通貨供給量が増えたことで通貨安とインフレを引き起こしている。

かくして市場は寂れてしまい、人々の暮らしは苦しくなる一方だ。また、商売のために外出することも難しくなってしまった。

別の情報筋はこのように語った。

「どこに行っても国家建設だ何だと建設工事をやりまくっている。そんな状況で下手に出歩くと、捕まって建設現場に連行されて工事をやらされる。それが市場に人がいない理由のひとつだ」

(参考記事:「そんなもの要らない」金正恩氏のビッグプロジェクトに市民が反発

もう1枚の画像を見てみよう。洗濯石鹸やたわしが写っているが、いずれも中国製だ。金正恩氏は、北朝鮮版の地方創生政策である「地方発展20✕10政策」の一環として、各地に地方工業工場を建設した。既に市場は稼働を始めており、そこで生産された様々な製品が出回ってもおかしくないはずだが、実際は中国製品に占領された状況にさほど変化がないことが見て取れる。

中国製品で埋め尽くされた新義州の市場(画像:デイリーNK)
中国製品で埋め尽くされた新義州の市場(画像:デイリーNK)

さらに別の画像を見ると、フード付きのジャケットにFILAと書かれている。元はイタリアのブランドだが、今では韓国資本だ。ご禁制の品のはずだが、誰も韓国企業のものと気づかないのだろう。

韓国企業のFILAのフード付きのコートを着ている北朝鮮の商人(画像:デイリーNK)
韓国企業のFILAのフード付きのコートを着ている北朝鮮の商人(画像:デイリーNK)

国営メディアは、地方工業工場で作られた製品が消費者の手に届いたなどと報じているが、この市場の状況を見る限り、現実はそんな状況とは程遠い。

金正恩氏は、多額の予算、多数の人的資源を投入し、過去30数年にわたって人々の力で築き上げた市場経済をぶち壊し、国民の生活を台無しにしてしまったのだ。