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スパイとしては、あまりにもお粗末だった。

徹底した監視社会の北朝鮮では、すべての企業、組織、そして町内にも保衛部(秘密警察)の情報員(スパイ)がいる。人びとの動向を監視し、なにかあれば保衛部に報告する。そのためにはもちろん、スパイとしての正体を隠さなければならない。

一向に解消しない食糧難と経済的苦境により、北朝鮮国内には不満が渦巻いている。当局は、国民に対する監視を強化したが、その不満が、正体がバレてしまった情報員にぶつけられる事態となっている。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

新義州(シニジュ)市内の某人民班(町内会)に住むA氏は、人民班の住民から最も警戒される人物だった。彼と何か話をすると、保衛部の監視を受けることになることから、情報員であることがバレバレだったからだ。当然のことだが、住民は彼と距離を置いていた。

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とはいえ、情報員だと顔に書いてあるわけではない。住民は、状況証拠はあっても確証を掴めずにいたが、ついにその日がやって来た。

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先月末のことだ。A氏は、韓国や中国からの送金を国内にいる人に届ける送金ブローカー業を営むB氏宅前で、来客と交わされる会話に聞き耳を立てていた。それも玄関扉に耳をピタッとくっつけて盗み聞きするという、粗忽ぶりだった。

すぐに気づいたB氏は、A氏にこう問いただした。

「他人の家で前で何してるんだ!官憲の犬になるのならもっと賢くやれ。真っ昼間に他人の家の前で会話を盗み聞きするのが仕事か!」

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よほど大声だったのだろう。近所の住民が一人、また一人とB氏宅前に集まりだした。

A氏のことを最大限に警戒していた住民は、今回の件で彼が保衛部の情報員であることを確信した。そして、口々に彼を罵り始めたのだ。

「なんてことをしてくれるんだ!」
「保衛部にチクったらいくらもらえるんだ!」

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保衛部の普段の横暴さに、恨み骨髄に達していた住民たちの不満が爆発した瞬間だった。物理的な暴力に発展したかは不明だが、そうなってもおかしくなかっただろう。

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北朝鮮は2022年、「群衆通報法」を改定した。この法律は、通報の対象範囲を「反社会主義的現象」から「社会生活領域で現れるあらゆる非正常な現象」に拡大し、全国的な通報体系を明文化した。これにより、以前にも増して監視が強化された。情報筋は語った。

「今では家から笑い声が聞こえても、次の日に情報員がやって来て、『一体なんでそんなに笑っていたのか』と尋ねるようになった」
「相互監視がひどくなり、お互いを疑うようになってカリカリし、人民班で喧嘩が絶えなくなった」

北朝鮮の人びとは、生活が苦しくともお互いを助け合い生きてきた。それが監視の強化で誰も信じられなくなり、何の罪もない人が疑われることも起きてしまっている。

「そんな現実は過酷だと皆が皆思いつつも、生き残るために他人を疑い、監視するようになった」

つまり、誰が情報員かを見極めるために、情報員でもない人が他人の一挙手一投足を監視する不信社会となってしまったのだ。

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その後のA氏について、情報筋は言及していないが、今まで以上に孤立したことは想像に難くない。人民班の会議など公的な活動以外は、徹底的に排除される。この話は近隣の人民班や職場にも広がり、地域全体からシカトされる。そうなれば、もはや正常な社会生活を営むことは不可能だろう。

誰も幸せになれないのが、北朝鮮という抑圧体制なのだ。