韓国政府傘下のシンクタンクである統一研究院は24日、2019年から2024年にかけて亡命した脱北者男女各16人の証言や、北朝鮮の法令資料などに基づきまとめた『北朝鮮人権白書2024』を発刊した。
それによると、北朝鮮では2023年2月、「敵地物処理法」なる新法が制定されたという。この法律では「敵地物」について、「敵がわれわれの社会主義制度を瓦解崩壊させる目的の下に送り込むすべての物」で、「傀儡(かいらい)の商標、絵、文字が刻まれた物品、傀儡の貨幣、敵が与える物品、敵側地域から地上と海上・空中に入ってくる汚物のようなもの」と定義している。
ここで言う「傀儡」とは韓国のことであり、要するに韓国から飛ばされてくるビラや、外部情報の入った記録媒体などのことだ。こうしたモノを保管・利用・流布した場合、重い刑罰を科すと定めたのが同法なのである。
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北朝鮮ではこれ以前にも、刑法と行政処罰法に同様の条項があった。それを廃止してわざわざ新法を制定したのは、従来の労働教化刑(懲役刑)から、最高刑を死刑として処罰を強化するためだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面もっとも、こんな法律を作るまでもなく、北朝鮮当局は韓国から飛ばされたビラを見た人物に極刑を下していた。2020年6月、軍を除隊したばかりの元大隊長が同僚にこんな話をしたことが発覚し、処刑されたのだ。
「除隊したからもう言っても構わないだろうが、以前、軍事境界線で勤務しているときに(南から)飛んできたビラを見たら、将軍様(金正日総書記)の故郷は白頭山ではなく、ロシアだと書かれていた。本名も金正日ではなくキム・ユーラだと書かれていた。われわれは歴史をきちんと学んでいなかったようだ」
話を聞かされた同僚が密告したのか、このことは保衛指導員(秘密警察)を通じて保衛局(前保衛司令部)に報告され、翌日には銃殺刑が執行されたという。
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我々の感覚からすれば、こんな取るに足らないことでどうして人命を奪うのかと思うが、北朝鮮の体制にとっては一大事である。金王朝の独裁体制は、神格化された最高指導者たちの幻想の下で成り立っている。それを、外部から流入する情報によって少しずつ侵食されては、体制の維持がおぼつかないのだ。
北朝鮮がわざわざ新法を作って国民を脅かすのは、外部情報の流入に危機感を持っている証拠でもあるわけだ。