北朝鮮には、平安北道(ピョンアンブクト)の雲山(ウンサン)、平安南道(ピョンアンナムド)の檜倉(フェチャン)、黄海北道(ファンヘブクト)の延山(ヨンサン)などに金鉱が存在する。
採掘された金は製錬所で金塊にされて、朝鮮労働党の秘密資金になる。民間人の金の採掘、所有、売買は厳しく禁じられており、違反すれば処刑されるほど重罪扱いだ。しかし、儲け話の少ない国で、金に手を出す人が後を絶たない。
(参考記事:300人が青ざめた、金正恩「お嬢さま処刑」の見せしめショー)
最近では、精錬法を習得して金塊を作る人も現れた。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平安北道の情報筋は、雲山金鉱の周辺で、金の原石を買い取り、精錬を行う人が増えていると伝えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そのきっかけは、とある噂だ。
「コロナで閉鎖されていた(中国との)陸路での貿易が拡大されるとの噂があるのに加え、個人の密輸も活性化しており、しばらく閉ざされていた金の密輸への道が開かれると考えられている」(情報筋)
コロナ前には、国や地方の貿易会社、外貨稼ぎ機関、個人業者がてんでバラバラに様々な商品を合法、非合法に輸出入していたが、北朝鮮はコロナ禍で国境統制を厳格化したのを機に、すべての貿易を国が取り仕切る「国家唯一貿易体制」に戻そうとしている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面それにより貿易が厳しく規制されたのだが、これが緩和されるといった類の根拠不明の噂が流れているようだ。
(参考記事:激しい拷問に抵抗した、北朝鮮「レザーの女王」の壮絶な最期)雲山鉱山で掘り出された金の原石は、定州(チョンジュ)精錬所に運ばれることになっている。鉱山当局はその輸送にかかる燃料や設備を自らの予算で確保しなければならないため、近隣に駐屯する朝鮮人民軍(北朝鮮軍)傘下の外貨稼ぎ基地に金の原石を売り渡している。
軍の外貨稼ぎ基地も独立採算制であるため、買い取った金の原石を民間人に販売している。上述の通り、本来なら重罪のはずの金の売買が、皆が生き残るために必要であるとして黙認されているのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ちなみに鉱山は外貨稼ぎ基地に10トン100ドル(約1万5500円)で売り渡すが、外貨稼ぎ基地はその2〜3倍の値段を付けて民間人に売っている。
買い取った人は、家族や親しい知人などとグループで金の精錬を行うが、彼らは青化法という、原石を砕いた後、青酸カリの水溶液をかけて金を溶かし、それを亜鉛と反応させて金を抽出する手法を使っている。効率的に純度の高い金が得られるが、毒性の高いシアン化合物による環境汚染が懸念される。
こうしてできた金塊は、ブローカーを経て新義州(シニジュ)一帯で活動する密売人の手にわたり、中国に密輸出される。密売人に直接販売する他の地方の手法とは異なるとのことだ。
雲山周辺では、金1グラムは30ドル(約4670円)でブローカーに買い取られ、50ドル(約7780円)で密売人に、そして70ドル(約1万900円)から80ドル(約1万2400円)で中国の業者に買い取られる。
平安南道の情報筋は、檜倉の金鉱周辺でも、昨年あたりから青化法を使った精錬方法のノウハウが販売されるようになった。売っているのは国を代表する研究機関、国家科学院の技術者だ。
「技術者も食っていくのが大変なので技術を売っている」(情報筋)
金の採掘に乗り出そうとする人は、科学者や技術者を呼んできて、金鉱または個人宅の庭に積み上げておいた金の原石を使い、そのやり方を直接教えてもらう。具体的には、水銀を使って金を抽出し、残った尾鉱(廃鉱石)からもさらに金が抽出するというもので、習得は2〜3日で済み、「授業料」は200ドル(約3万1000円)だという。
この一帯には、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」で食糧配給が途絶えたころから全国から人が集まるようになり、ゴールドラッシュの様相を呈した。
人びとは、廃坑に寝泊まりし、1〜2グラムの金が含まれた原石を掘り出し、密輸業者に売り渡して、生活していた。トンジュ(金主、ニューリッチ)のように、鉱山当局から採掘権を買い取り、大々的に採掘を行って、原石をトラックで運んで輸出する者もいたという。