2024年は北朝鮮の人々にとって散々な一年だった。急激な通貨安が進むにつれ、物価は高騰、市場への取り締まりも強化され、暮らしは悪化するばかりだった。
そんな状況で迎えた2025年、北朝鮮の人びとはどんな思いを抱いているのだろうか。
中国との国境に接する平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)の市場で商売をしている50代女性のキムさんは、新年の願いをこのように述べた。
「当局の統制を受けずに市場で商売をすることができれば、それ以上望むことはない。市場が活発になれば、多くの住民が生活しやすくなるだろう」
「国には何も期待しない。国は何かをしようとせず、ただ何もしないで私たちを放っておけば、経済は今より良くなるだろう」
北朝鮮では過去30年間、なし崩し的に市場経済化が進んだ。当局はその流れを押し留め、旧態依然とした国家主導型の計画経済に戻そうとしている。いっそうの市場経済化が外部情報の流入などと相まって、独裁体制を脅かすと考えているのだ。
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同じ平安北道でトンデコ(闇両替商)を営む40代男性のチョンさんも、規制の緩和を望んでいる。
「昨年、国が個人の両替を完全に規制し、金を稼ぐのがいっそう大変になった。両替も食品販売と何ら変わらない不可欠な商売なので、規制を緩和して欲しい」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、国の現実とかけ離れた外貨政策にも不満を述べた。
「どうせ国が決めた為替レートなんかで取り引きはできないし、国が外貨需要を満たすこともできない。結局、私たちのようなトンデコが乗り出さなければならないのに、なぜ国は個人の両替を規制するのか。規制を取っ払ってこそ経済が発展するだろう」
北朝鮮の内閣は昨年8月20日、どういうわけかトンデコを通貨安の元凶と見て、「レートを安定させよ」「外貨の蓄財、両替をやめさせよ」「両替は国の定めた協同通貨取引所の1ドル(当月の平均で146円86銭)=8900北朝鮮ウォンを死守せよ」などとする内容の政治資料を、全国の朝鮮労働党と人民委員会(道庁、市役所)などに配布した。
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ちなみにこれをデイリーNKが報じる直前の昨年9月15日のレートは1ドルが1万6150北朝鮮ウォンで、今年1月5日の時点では2万2000北朝鮮ウォン台、一部では4万北朝鮮ウォンに達したとの情報もある。
(参考記事:「底なし下落」の北朝鮮通貨、庶民は国家に強烈な不満)平安北道の外貨稼ぎ基地で勤務している40代男性のリさんも、国の政策に極めて批判的だ。
「国家の規制以降、為替レートがさらに上昇し、1ドル2万北朝鮮ウォンをはるかに超える状況になったのは、取り締まりと規制が答えではないことを示している。国家が為替レート安定化のために規制を強化すればするほど、北朝鮮ウォンの価値はさらに暴落するだろう」
批判と不満が渦巻く中、実物を売買する市場への規制は若干緩和されつつある。
市場での商売をしているキムさんはこう語った。
「平安北道の宣川(ソンチョン)郡など、近隣地域では新年から市場運営時間が延長された。以前は午後3時から午後8時30分までだったが、今は午後9時まで開いている」
「取り締まりなしで自由に商品を売買できるようになれば、それだけでも楽になる人が多いだろう。市場の運営時間が長くなり、取り締まりも少し減れば、少なくとも飢えに苦しむ人は減るだろう」
(参考記事:「100人銃殺」でも抑え込めない、北朝鮮「通貨が紙くずに」の噂)このように、北朝鮮の人びとの新年の願いは「商売を自由にさせろ」という極めてシンプルなものだ。国はインフラ、医療、福祉施設の整備などに専念するだけでも、充分に支持を集められるはずなのだ。