「絶糧世帯」とは、手持ちの食べ物が底をつき、それを買う現金すらない世帯のことを指す北朝鮮の用語だ。
前年の収穫の蓄えが底をつく春から、麦やジャガイモの収穫が始まる初夏までに多く現れるのが以前の傾向だったが、最近では秋の収穫が終わった直後の今の季節でも少なくない人々が絶糧世帯に陥る。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)人民委員会(道庁)や各市・郡の人民委員会(市役所)が、絶糧世帯への支援に乗り出したが、生活困窮者からは逆に怨嗟の声が上がる状況となっている。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)人民委員会は12月11日から20日まで、地域住民の食糧保有状況の調査を行った。これをベースにして、元日に1世帯当たり3キロ以上のコメを支給する。
しかし、その基準が問題となった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面会寧(フェリョン)市人民委員会は、洞事務所(末端の行政機関)と人民班(町内会)を通じて食糧保有について調べたが、家中隅々を調べて、コメが1キロでもあれば支給対象から除外した。また、テレビ、変圧器、ミシンなどの電化製品がある場合も同様に除外した。
これに対して住民からは激しい反発の声が上がっている。
「家に電化製品やコメが1キロあるだけで絶糧世帯に含まれないのはおかしい」
「家に何もない人などいるものか」
「今すぐ餓死したとしても、コメなんか受け取らない」
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また、一部からはこんな声も上がった。
「国はいつから餓死しそうな人に関心を持つようになったのか」
「突然、コメを支給すると言って絶糧世帯を調査するのは怪しい」
朝鮮労働党や政府、地方当局が住民の生活の向上に努めるのは当たり前だ。ところが、露店を開いてなんとか生き抜こうとする人を追いかけ回し、ワイロを搾り取ったり、あれこれ理由をつけて「税金外の負担」を強いたりするなど、むしろ生活の障害となっている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、コメを支給すると言っておきながら、実際はやらないという「するする詐欺」を繰り返してきた。さらに、支給するコメを住民から取り立てるという手法も動員したこともある。
(参考記事:飢えた北朝鮮の一家が「最後の晩餐」で究極の選択)
人びとの不信感はかくも根強い。会寧市内に住むある住民は、調査にやってきた職員と人民班長にこう言い放ち、激しく抗議した。
「コメをくれるなんて嘘もいい加減にしろ。コメをくれなんて言わないから、労力動員に呼び出すな。さっさと出ていけ!」
(参考記事:北朝鮮で餓死者続出…金正恩「どんちゃん騒ぎ」の悪夢再び)なお、金正恩総書記は2012年、指導者就任の祝宴のために穀倉地帯の黄海南道(ファンヘナムド)一帯から食糧を根こそぎ徴発し、大量の餓死者を出した「前科」がある。