北朝鮮では今年も、反動思想文化排撃法が猛威を振るった。2020年に制定され、別名「韓流取締法」とも呼ばれる同法は、今や北朝鮮当局による国民統制の主要な「ツール」となっており、その存在は国際的にも広く知られているほどだ。
同法の最高刑は死刑だが、そこまで行かなくとも、市民の人権は多様な形で踏みにじられている。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、道内の金策(キムチェク)市にある城津(ソンジン)製鋼所の電話交換手として働くAさんは、地元でも評判の美人だ。彼女は昨年末、市の糧政事業所の幹部である父親Bさんの誕生日に家に同僚のCさんを呼んで誕生日パーティを開いた。父親Bさんとも仲の良いCさんとは韓流ドラマ、映画、K-POPの大ファンで、ご禁制の韓流を共に楽しめるほどの信頼関係を築いていた。
ところがこの事実が、今年の初め頃、隣人の噂話により市安全部(警察署)に伝わってしまった。
3人はすぐに逮捕され、2カ月にわたって予審(起訴前の証拠固めの段階)を受けた。激しい拷問を受けたことは想像に難くない。
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当局は製鋼所の文化会館に数千人とも数万人とも言われる全従業員を集められた上で、「公開思想闘争会議」を開いた。つまりは見せしめのための「吊し上げ」である。手錠をかけられうなだれたまま舞台にあげられた3人は、様々な人からかわるがわる激しい批判を受けた。
結局、Aさんは首謀者として3年の労働教化刑(懲役刑)、Cさんには労働鍛錬刑(半年以下の懲役)の判決が下された。一方、父親のBさんは、娘へのしつけを怠ったとして、糧政事務所幹部の職を解かれる処分を受けた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮当局は、こうした「見せしめ」も様々な形で行うようになった。近年ではドキュメンタリー風の映像を作って公開し、その中で、同法の違反者らの顔と実名をさらしている。
その目的はおそらく、違反者の家族や友人・知人たちに対する警告だ。なぜなら違反者本人は、長期の懲役刑を下されるケースがほとんどだからだ。環境の劣悪な刑務所で、長期にわたる収容生活を生き延びられる確率は大きくない。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)こうした取り締まりは国際的な非難を浴びているが、実際のところ、金正恩体制の歯止めとなるものは何もない。現状では全く見込みのないシリアのような体制崩壊が、いつの日か起きることを願うのみだ。