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第17代大統領を選出するための大統領選挙が終わった。

今回の大統領選挙は脱北者である筆者が、大韓民国の国民になって初めて参加した選挙だった。いや、生まれて初めての自由選挙だった。北朝鮮では想像することができない自由。だが、あまりに自由で、混乱まで感じた選挙過程を見守った。そして19日に力強くはんこを押した。

投票用紙を入れようとした瞬間、投票箱の上に書かれた文を見て、鼻がむずむずした。“投票するあなたが美しいです”

ここの人たちも何度も聞いただろうが、北朝鮮の選挙は党が決めた人を通過させる形式的な手続きに過ぎない。選挙は社会の不満勢力を選び出して選挙人名簿を作成して、住民の統制を強化する道具にすぎない。

筆者は2003年8月に、北朝鮮の最高人民会議の代議員選挙(韓国の国会議員選挙に該当)に参加した。17歳の時に初めて参加した選挙だった。北朝鮮では満17歳になったら大人とみなし、選挙権を与える。北朝鮮では法律で‘17歳以上の公民は選挙権と被選挙権を持つ’と規定されている。

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北朝鮮で事実上、最高権力者である国防委員長(金正日総書記)の選挙は間接投票だ。最高人民会議の代議員が選ぶので、住民は選挙に参加することができない。一般の住民が投票できる選挙は、最高人民会議の代議員選挙と地方代議員選挙だけだ。

住民たちが投票する選挙も、国家で指定した候補者に投票をするように決まっている。候補の競争というのもありえず、特別に公約を出すこともない。

また、韓国では選挙に参加することは自由だが、北朝鮮ではそうではない。特別な理由なく選挙に参加しなければ反動と言われ、国家安全保衛部の調査を受けて政治犯収容所に行くことになる。

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選挙に参加しても候補者に対して反対意志を表示することができない。形式上反対することができるが、反対票を入れた後はやはり政治犯収容所に行くことになる。無条件参加しなければならず、義務的に賛成票を投じなければならないため、人々が選挙に関心を持つはずがない。

私も候補に対して何の関心もなかった。ただ私も大人になったなという考えで胸がいっぱいになっただけだった。

初めての選挙だったので、好奇心も高かった。’選挙はどのようにするのか’ということが唯一の好奇心の対象だった。朝7時から選挙をするため、ヘジャン幼稚園(両江道恵山市)に設置された投票所に行った。

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選挙場(投票所)の前は朝から人でごったがえしていた。どうせ無条件参加しなければならない選挙なので、早く選挙をして1日楽しもうと皆思うからだった。

投票場の庭先まで一杯になった人々の前では、女性同盟員たちがあらかじめ準備した踊りを披露していた。朝から酒に酔った数人が、薄赤くほてった顔で踊り場に向かって、“選挙よし!”と叫んで手を振っていた。選挙をあざ笑っているのか、でなければ1日楽に休めるのでよいというのか、よく分からなかった。

人々の間にまぎれこんで投票所の長い廊下に進んだが、息が詰まるほどだった。廊下には灯りがなくて真っ暗なのに、後からどんどん入って来る人のため、皆が悲鳴を上げて修羅場だった。

投票場の中でも手続きがあるので時間がかかる。とうとう人が一杯になったと言って、投票所の門を閉めてしまった。

最初に投票をしたからといって、賞をくれるわけでもない。ただ早く投票を終わらせて家に帰って休みたいため、人が押し寄せて投票所がこのようになってしまうのだ。

押されて倒れるお年寄りに向かって、“年寄りがどうして割りこんだんだ”と言う若者もいる。両手で頭の上に上げた子供があらんかぎりの声を張りあげて泣いても、子供のために心配する人はいない。投票場に子供を連れて来たと大声を出して悪口を言う人はいるが。

体をぎゅっとおされた人たちが、真っ黒な廊下でおしあいへしあいしている光景が今も思い出される。うちの両親が遅く来ることを祈った。母と父が押されて、嫌な言葉を聞かないことを願ったからだ。幸い、両親は仕事があって午後に投票場に行った。

40分以上廊下で苦労して、やっと投票所に入ることができた。金日成、金正日の肖像画の前に頭を下げて挨拶をした後、公民証(住民登録証)を出して投票用紙をもらった。秘密投票というが、幾列にも並んで人々が入って来るのに、反対票を出すということは想像もできなかった。そのまま投票用紙を入れて家に帰って来た。

投票場の庭先には担当の保衛員と党幹部が立っていた。彼らは投票場に来て、金日成のバッジをつけていないと言ったり、ズボンをはいて来る女性たちを厳しく追窮して家に帰していた。保衛員たちはズボンをはいて来る女性を、”どこの女性がズボンをはいて選挙場に来るというのか”と大きな声で批判する。

私の手で私が望む候補に投票をしたので、本当に自由人になったようだ。そして一方でそのような自由も享受することができずに生きて行く北朝鮮の兄弟が切ない。北朝鮮で権力とお金があると息巻く人々にも、選挙の自由はない。北朝鮮で自由な人は金正日1人だけというのは本当のことである。