中国東北地方は、熱帯低気圧に変わった元台風3号(ケミ)から流れ込んだ湿った空気が梅雨前線を刺激したことにより、大雨に見舞われた。遼寧省気象台によると、7月20日から29日午前8時までの省内の平均降水量は215.9ミリと、平年の2.6倍に達し、1951年に次いで2番目に多い記録となった。
丹東市では26日から28日まで大雨が振り、市内の一部が冠水し、28日にはついに鴨緑江が氾濫するに至った。対岸の北朝鮮でも被害が発生した。
丹東と鴨緑江を挟んで向かい合う新義州(シニジュ)市、義州(ウィジュ)郡に属する中洲は27日、大雨により孤立し、金正恩総書記が現地を訪れ、人命救助の陣頭指揮を取った。
(参考記事:金正恩氏、洪水被災地で住民救出を指揮…幹部らに激怒)そして、郡の災害対応担当部署や社会安全省(警察庁)の対応を「無責任だ」と叱責した。
だが、平安北道のデイリーNK内部情報筋の伝えた現地の状況を聞くと、金正恩氏の陣頭指揮、幹部叱責はパフォーマンスに過ぎないことがよくわかる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面27日午前5時ごろ、新義州市の水門洞(スムンドン)、敏浦洞(ミンポドン)、駅前洞(ヨクチョンドン)など鴨緑江に面した地域から浸水が始まった。住民は、リヤカーや自転車に家財道具を積み込み、緊急避難した。その中には「肖像画」も含まれていた。
故金日成主席と故金正日総書記が書類を手にして何かを検討している様子を描いた「事業討議像」で、各家庭の壁にかけられている。肖像画を取り出してビニールに包み持ち出す人もいれば、その時間的余裕がなかったのか、額縁ごと持ち出す人もいた。中には、こんな人もいたという。
「慌てて逃げたので肖像画を持ち出すことを忘れ、高台に逃げたのに、他の人が肖像画を持っているのを見て、浸水した家に走って戻る人も複数いた」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面さらには、家族全員の無事を確認するよりも、肖像画を持ち出せたかをまず尋ねるという笑えない冗談のような光景も見られたとのことだ。
「眼の前で家が流され、逃げ遅れた人もいる状況なのに、家族の安全よりも肖像画の安全を確認する人もいた。中には『家財道具ばかり持ち出してなぜ肖像画を持ってこなかったのか』と妻をなじる夫すらいた」
人命よりも肖像画が大切とされるのが北朝鮮だ。当局は、「直接首領様(金日成氏)にお会いするように丁重に扱え」と指導している。事故や災害の際に、命を投げ出して肖像画を守ったことが美談として紹介されることもある。北朝鮮国民の多くが、そのくだらなさに気づいてはいるようだが、だからと言って命令に背くわけにもいかない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命)
「洪水から非難する際に肖像画を持ち出せば、後々大きく評価されるかもしれないとは言え、家族の安全より肖像画の安全を尋ねるのはいくらなんでもひどい」(情報筋)
肖像画の入った額縁は、ホコリが溜まらないように毎日掃除することを求められるが、平時にそれを敢えてサボタージュしているものと思しき現象が見られる。しかし、事故や災害のときには、そうもいかないようだ。北朝鮮人民の命は、紙切れ1枚よりも軽いのだ。
(参考記事:北朝鮮で「命より大切な将軍様の肖像画」が粗末に扱われる事態多発)