昨年11月、駐キューバ北朝鮮大使館で参事官として勤務していたリ・イルギュ氏が家族とともに脱北したことが大きく報じられている。
公共放送KBSのインタビューに応じたリ氏は、脱北の一番の理由として子どもたちの未来を挙げた。
成分(身分)がよくエリート外交官の座に登りつめた自分は死ぬまでさほど苦労せずに生きられるだろうが、子どもたちはそうとは限らないとして、労働の搾取、不公平な評価が横行する北朝鮮での暮らしにもはや未来はないということだ。
北朝鮮は、中国公安当局に逮捕され、強制送還を待つばかりの脱北者を、コロナを理由に受け入れ拒否していたが、昨年8月から再開した。リ氏は、これがきっかけとなり、複数の外交官が脱北したと明らかにしたが、名前や駐在国、人数などには言及しなかった。
(参考記事:「処刑台」に向かう北朝鮮女性10人…中国での”暴動首謀者”を強制送還)実際に、リ氏一家以外にも北朝鮮外交官やその家族の脱北が相次いでいる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面中国駐在の北朝鮮外交官が先月初旬、平壌にいた妻と娘を呼び寄せ、脱北としたと韓国の朝鮮日報系のTV朝鮮朝鮮が報じた。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
同局はまた、昨年末にフランス駐在の北朝鮮外交官の妻と娘が、夫が病死するや、平壌に戻らず遺骨を持って米国に亡命したと報道。アフリカのある国に駐在していた別の北朝鮮外交官が、最近脱北に成功したとも明らかにした。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面韓国の趙兌烈(チョ・テヨル)外相は、17日に開催された国会外交統一委員会で、「エリート外交官を含めて、(北朝鮮)高位幹部の挫折感が大きくなりつつある」としつつも、、故人となった外交官の家族が脱北したことについては、「セキュリティの問題のため確認できない」と述べた。
韓国政府は脱北者の入国有無などについて、一切の確認をしないことを原則としているが、この日の答弁は脱北を完全否定しなかったことから、婉曲的に事実と認めたものと受け止められている。
外交官の脱北が相次いでいることについて、元駐クウェート北朝鮮代理大使だったリュ・ヒョヌ氏はTV朝鮮のインタビューに、本国への上納金である「忠誠の資金」が最高で5万ドル(約787万円)または6万ドル(約945万円)に達し、全体のほぼ半分は達成できていないだろうと述べた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面達成できなければ、本国に召喚され厳しい検閲(監査)を受けた後、運が悪ければ地方の閑職に飛ばされる可能性がある。自由で豊かな外国で暮らした外交官とその家族には、日々の糧に事欠くほどの北朝鮮の地方での暮らしは耐えられないだろう。
(参考記事:「帰国命令」に怯える北朝鮮の海外駐在員たちの”最後の手段”)北朝鮮の重罰主義が、脱北を煽る傾向は以前からあったが、コロナ禍やその期間中の鎖国、それまでとは異なり、貿易の一切を国が取り仕切る「国家唯一貿易体制」の復活により、上納金の調達が以前にもまして難しくなったことが、相次ぐ外交官の脱北につながっていると見られる。