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金正日の宿願事業の一つであった両江道白岩郡ジャガイモ農場事業。最近ここの農場管理員らは日々頭を悩ませている。来月はジャガイモの種蒔き期なのだが、種を撒く前から「課題達成」が気がかりで夜も眠れない。ジャガイモ栽培の90%を人手に頼るのだが、労働者が全く足りない。休暇で故郷に帰った退役軍人からは1年以上音沙汰がない。その数は実に1,500名余りにも達する。

両江道の内部消息筋によれば、金正恩が主導し金正日が承認した白岩郡ジャガイモ農場事業が最大の難関に直面しているという。

現地で勤務するはずだった退役軍人の半分が行方をくらましたのである。白岩郡は北朝鮮でも有名な山間奥地ではあるが、「偉大なる領導者金正日」と「最高指導者金正恩」の指示がここまであからさまに無視される状況をどう説明しようか。

「ジャガイモ栽培しかやることがない」という両江道が注目を浴び始めたのは1998年以降。いわゆる「苦難の行軍」と呼ばれる食糧難が頂点に達した頃、金正日は大紅湍郡を訪問し(1998.10.1)、「ジャガイモは白米と同じ」という言葉を残した。ところが咸鏡南道長津郡同様、北朝鮮で最も奥地とされる大紅湍郡には労働力がなかった。その代案として退役を控えた全国の軍人をここの農場員として集団配置する指示が下された。

両江道出身の脱北者は、当時権力のある幹部の子弟が集団配置から除外されたとしても、最低4〜5千名規模の軍人が大紅湍郡一帯に定着したと証言する。労働党は彼らの機嫌をとるため、未婚女性数百名を移住させ結婚式を挙げさせる「配慮」まで惜しまなかった。金正日が「男なら『大紅湍』、女なら『紅湍』と名付けろ」と親切にも(?)アドバイスまでした結果、この土地では姓は違っても名前は同じという子供が多数生まれた。

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2009年12月には金正日の指示を受け、白岩郡ジャガイモ農場建設計画が推進された。金正日の指示には金正恩の提案が大きく作用したとされる。消息筋によれば、金正恩が白岩郡の事前調査を終えた後、中央党幹部らに「将軍様が大紅湍郡を住みやすい場所にしてくださった。私は白岩郡を桃源郷にしてみせる」と言い切ったという。

当時、金正恩がどれほど強い口調で同事業を要請したのか定かでないが、両江道幹部らは白岩郡徳浦地区に造成するジャガイモ農場を「大ジャガイモ農場」と呼んだ。不十分な労働力は又しても退役軍人で工面することになった。北朝鮮において前例というのはこのように頑固で執拗なものなのである。

朝鮮中央通信の報道によれば、金正日は2010年5月白岩郡を訪問した。彼は当時「新たに建設中のジャガイモ農場は白岩郡をジャガイモの産地に変化させるうえで重要な意義を持つ」と話し、農場建設に臨む綱領と同様の課業を提示した。

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同年8月、白岩ジャガイモ農場に退役軍人の集団配置が完了したと朝鮮中央放送の報道が伝えられた。平壌人民文化宮殿では、配置予定の退役軍人に国旗勲章(2級)を授与する行事が開催され、数叙恂シの平壌市民が見守るなか彼らに対する歓送式が挙行された。これら全ての模様が北朝鮮TVによって録画中継された。

「代を継ぐ農場員の人生は死刑宣告とも同じ」…休暇軍人、半分以上が復帰せず

白岩ジャガイモ農場に配置された退役軍人の規模は3千名余り。しかし今は時代が変わった。「百姓が次々と餓死した時代」のど真ん中にいた1998年に退役した軍人は、「それでも餓死は免れる」と最高指導者と党の決定を受け入れた。しかし2000年代の「市場と資本主義」という劇的変化を全身で体感した新世代の軍人は、以前の軍人のようにはいかなかった。

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一度居座ったら永遠に出てこれない山間奥地で、それも子供たちに代を継がせることになる「農場員」としての人生は死刑宣告に等しい。こつこつと能力を発揮すれば平壌の党幹部もうらやむ程に生活できるこのご時勢に、ジャガイモ掘りで生計を立てるしか術のない山奥の生活を好む者はいない。

消息筋によれば、その年の10月から彼らに1ヶ月の故郷訪問休暇が与えられたそうだ。「退役と同時の白岩郡赴任で何かと苦労が多かっただろうに、しばらく家族にでも会ってこい」という理由だった。

しかし内部事情は違った。個人の生活必需品や暮らし衣食住を国が支援できておらず、その代案としての休暇だったという。各自実家に帰って小遣いももらい、生計の足しになるような物をもらってこいという意味だった。10年前のように未婚女性をあてがい結婚式を挙げさせるといった党の「配慮」もない状況で、「補給闘争」という性格の苦肉の策であった。

休暇をもらった軍人のうち農場に復帰した者は半分にも満たなかった。復帰日から1年半以上過ぎたにもかかわらず、依然として1,500名余りが「未復帰状態」だと消息筋は話す。北朝鮮では、特定の職業群に集団で人員を配置することはよくあるが、このように一つの単位で「集団的」に国家方針に背くことは稀である。

休暇を終え復帰した退役軍人のほとんどは故郷に帰っても、結局は農場員をしなければならない農村出身者だった。都市出身の退役軍人は戻ってこなかった。「チャンス」という観点で白岩ジャガイモ農場は全てを諦めなければならない場所なのである。

現在都市労働者の場合、一定の賄賂を所属企業所に渡せば出勤せずとも自由に商売することができる。2010年前半までは手錠をはめられ白岩郡に連行される人も時折見られたが今はそうでない。

未復帰問題に対する解決策見えず…金正恩統治の試験台か

現在北朝鮮の権力水準を考慮した場合、1,500名もの人間を白岩郡まで連れてくるのは容易ではない。単純計算で退役軍人1人を連れてくるには最低2名が必要だ。つまり年間3千名が必要となる。

消息筋によれば、白岩郡内の保安員(警察)兵力は多くても300名には達しないとされるが、彼らが日常業務を後にして全国各地に散らばった退役軍人を捕まえるのは現実的に不可能である。長距離出張に必要な交通費、宿泊費などの経費を調達する術もない。

では退役軍人の出身地の管轄保安員たちはどうか?彼らにとって退役軍人は「同郷の人間」である。現在は大分状況が変わってきたが、北朝鮮では退役軍人を優遇する伝統がある。そのため「祖国保衛」のために10年間空腹に耐えひもじい思いをした同郷の先輩、後輩、友人を両江道の奥地に送り込もうとする保安員は多くない。

彼らを捕まえ白岩郡まで連れて行くとしても警備を考えると思いとどまってしまう。実績として評価されるわけでもない上に、白岩郡の保安員でさえ捕獲に消極的な状況で、我先と進み出るのは全くもって馬鹿馬鹿しいことと皆が思っている。

また、退役軍人が3、4ヶ月に渡り経験した「白岩郡の実態」は同郷の同情を買うのに十分である。彼らに割り当てられた家は屋根と壁があるだけで、壁紙はもちろん床紙も張られていない粗末なものだ。食糧・電気・水道供給は全てが劣悪である。人々の同情が世論化された結果、保安員の心まで動かされるのだ。

一方、労働党の幹部は同問題の解決を諦めはしなかった。各地域の党幹部は未復帰者を探しては「党の方針で実施されたことだ。忠実に受け入れるべきではないのか」と訴えたという。

しかし程なく未復帰者の両親から絶叫まじりの抗議に直面することになる。「祖国保衛10年なら十分じゃないのか?自分の子供をあんな所に送れるのか?」などと反発があふれ出すのだ。高位幹部の子供の場合だと地域党幹部の立場はさらに弱い。

このような未復帰状況が長期化する中、休暇を終え約束どおり復帰した者は大きな違和感を感じるようになった。消息筋によれば「党と国家の方針に従うのは結局、無力な人間の役目だ」という嘆息がこぼれるほどだ。

未復帰による農場現場での労働力不足も問題だが、出勤する労働者の労働意欲喪失もまた深刻である。農機具よりも全的に人間の労働力に依存する北朝鮮のジャガイモ栽培の特性上、農場が直面した状況は厳しい。

白岩ジャガイモ農場は過去10年間、北朝鮮の内部状況の変遷を圧縮して見せ付けてくれる。「遺訓統治」という美名のもと、過去の踏襲にのみ安住している金正恩の旧態と変化した住民意識がちょっとした衝突を起こしている。

弛緩した中下級幹部の体制守護意識は最高権力者と一般住民の間の隙間をさらに広げている。退役軍人の「不服従」問題は金正恩の権威と統治能力を試す方向へと向かっている。現段階では解決には紆余曲折があることと予想される。