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米国務省は、22日に発表した「2023 国別人権報告書」を通して、金王朝の神格化と関連する人権侵害の事例に言及した。

同報告書は脱北者らの証言を引用して「金日成または金正日の写真が載った新聞を敷いて座ったり写真を損なったりする行為、金日成の学歴が低いことに言及する行為などを政治犯罪と見なしている」とし、政治犯は収容所に送られるなどと指摘している。

実際のところ、これは北朝鮮国内においては常識レベルの話だ。最高指導者の権威を傷つける行為は最大の罪であり、そのことを知らない国民はひとりもいないだろう。

それでも、「過ち」を犯してしまうことはある。今から10年以上前の話になるが、こんなことがあった。

2010年初め、黄海南道(ファンヘナムド)に駐屯する朝鮮人民軍(北朝鮮軍)第4軍団のある師団長の専用車が、軍総政治局の会議に参加するため平壌に向かっていた。

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彼が乗っていたのは、排気量3275ccのSUV「パラディン」。中国の自動車メーカー・東風汽車と日本の日産自動車の合弁会社が生産しているもので、北朝鮮は2007年、この車を300台輸入し、軍の師団長と師団政治委員たちに与えた。

当時の北朝鮮では、最新の車である。そんな車を、普段は田舎のデコボコ道で走らせるばかりだった件の師団長は、首都に通じる高速道路に進入するや、整然と舗装されたアスファルトに気分が浮き立ったようだ。

「おい、思い切り踏んでみろ」

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たぶん、運転兵にこのような指示を与えたのだろう。パラディンはぐんぐん加速し、夜間でもあり車のまばらな高速道路を疾走した。

すると、彼らの車に追い越された1台の乗用車が猛然と追い上げてきた。そしてパラディンを追い越し、道をふさぐようにして止まった。見ると、車種はメルセデスベンツの「S600」である。

北朝鮮では、ベンツは朝鮮労働党の幹部だけが乗ることができる。それも、大臣クラスの党書記ですら「S280」止まりである。それをはるかに上回る高級車に乗っているのは誰か。師団長も運転兵も、すっかり怯えて固まってしまった。

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するとS600の窓が開き、ひとりの「若者」が顔を出すと、パラディンをひとにらみして何も言わず行ってしまった。

(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面

翌日、軍総政治局の会議場に、その師団長の姿はなかったという。師団長が悲惨な末路を辿ったであろうことは想像に難くない。

しかし、これはまだ序章に過ぎなかった。この後、政権を継承した金正恩氏が、居眠りしただけの軍高官や、停電によるトラブルについて弁解した工場支配人らを、次々と抹殺していったのだ。