中国は、「経済的に理由で違法に入国した北朝鮮出身者は難民ではない」という原則を崩していない。脱北者はその意図がいかなるものであろうとも、そのような扱いを受けて強制送還される。
先月15日にスイス・ジュネーブで行われた国連人権理事会の付属会議でも、同国の外交官はその原則を繰り返した上で、送還後に自由や生命が脅かされかねない人々の送還を禁止する、国連難民条約のノン・ルフールマン原則は適用されないと主張した。また、「人権侵害が行われているという証拠はない」とも述べた。
送還後の脱北者がどのような扱いを受けるかを示した事例としては、韓国の文在寅前政権が2019年に亡命を求めた脱北漁民2人を北朝鮮に強制送還した事件が挙げられる。
韓国統一省は2022年7月、送還時の様子を収めた写真10枚と4分ほどのビデオ映像を公開した。
北朝鮮の内部情報筋が韓国デイリーNKに伝えたところによると、北朝鮮当局は男性2人の身柄を黄海北道(ファンヘブクト)の沙里院(サリウォン)にある国家保衛省傘下の施設で拘束。情報筋によれば「保衛省は50日間にわたり、肉体的な苦痛を伴う取り調べを行った後、2人を処刑した」という。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面つまり同省が公開した写真と映像は事実上、この2人が、北朝鮮の「拷問室」へと引き立てられていく、まさにその姿を収めたものと言えるわけだ。写真と映像を見ると、漁民の1人は明らかに怯え、渾身の力で送還に抗っている。一方、もう1人はすべて諦めたかのように、淡々とした様子だった。
この問題が韓国国内で重大視されるに従い、その情報は北朝鮮にも流入し、現地の人々の驚愕と憤激を誘った。
2人の出港地ともされる咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によれば、外部情報に接することのできない現地の人々は2019年当時、「南朝鮮(韓国)に逃走を試みた2人が警備艇に連れ戻されて命を落とした」という程度の噂話を耳にした程度だった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ところが、当局が作成した思想教育の資料でこの事件が紹介され、実際に起きた事件であることが知られるようになった。「脱北した裏切り者の末路」を見せることで恐怖を煽るといういつものやり方だが、北朝鮮の人々からは、「中国で捕まったというのなら理解できても、南朝鮮に入った人々が送り返されたというのは想像すらできないこと」との反応を示したという。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
文在寅前政権と関係者らは当時から、漁民2人が船内で同僚の乗組員16人を殺害し、逃亡していた事実を北朝鮮側の通信を傍受するなどして把握。国内に迎えることはできないと判断し、送還を決断したと説明している。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ただ、犯行情報が事実であるかを確認するための調査が、十分に尽くされたかは疑わしい。現在の尹錫悦政権は、一連の事件に対する捜査を進め、徐薫(ソ・フン)元国家情報院の院長ら4人が起訴された。来月14日から審理が始まるが、「人権を大切にする政権の重大な人権侵害」の事例に対して、そのような判決が下されるか注目される。