朝鮮半島では、かつて「書堂」と呼ばれる日本の寺子屋に相当する私学校が子どもの教育を担っていた。漢字の基礎教材とされていた「千字文」を諳んじるところから始まり、「童蒙先習」「小学」「四書」などを使って字の書き方、詩の読み方のみならず、人の道を教わった。また「算学啓蒙」という書を使い、数学を学んだ。ただ、これらの教育は男子偏重が著しく、女子は諺文(オンムン、ハングル)を習う程度だった。
19世紀末から近代的な教育制度が導入されたが、書堂も併存していた。1924年生まれの故金大中大統領は、普通学校(朝鮮人児童が通う小学校)に入る前、特鳳講堂という名の書堂に通い、「明心宝鑑」という孔子、孟子などの言葉を集めた書を学んだという。
しかし、識字率が上がることはなかった。朝鮮総督府の1930年の調査で、ハングル識字率は15.4%、日本語識字率は23.3%だったが、1945年に日本の植民地支配から解放された後の調査でも、識字率は22%に過ぎなかった。そのため、韓国も北朝鮮も識字教育に非常に力を入れた。
北朝鮮臨時人民委員会の委員長で、後に北朝鮮の主席になる金日成氏は1946年2月、「文盲退治運動」を始め、わずか3年で「文盲退治完遂」を宣言した。韓国では1958年末の時点で、ようやく識字率が96.1%に達した。
このように識字教育は、南北を問わず非常に重要視されてきたが、2024年の今になって、北朝鮮では文字がまともに読めない子どもが増えつつあるという。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
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北朝鮮第2の都市、咸興(ハムン)市内の小学校では、まともに教育が行われておらず、子どもたちはチョソングル(ハングル)すらまともに読めない有様だという。北朝鮮の公教育が思想教育に偏重していることから、親たちは子どもの才能を伸ばすために、英語、歌やダンス、ピアノなどを教える家庭教師を雇っていた。
ところが今では、ハングルを教わるために家庭教師を雇う状況に陥っている。
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他の地域でも事情は変わらないようだ。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、このように語った。
「最近は子どもたちが読み書きができないほど学校のレベルが下がっている。子どもに家庭教師を付けるのが必須になっている」
教育がまともに行われないのは、教師の待遇が悪すぎるからだ。
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朝から晩まで熱心に授業を行っても、1グラムのコメも配給されない。教師たちは生きるために、朝出勤したその足で商売に出かけていく。登校した子どもたちは、教師のいない教室でただ遊んでいるだけだ。
「先生方は『静かに座って自習しなさい』とだけ言って出ていってしまうことが多い」(咸興市内の保護者)
教師の生活苦を知る親たちは、子どもの教育は自分たちの役割だとして、苦しい生活の中でも家庭教師を雇う。ただ、そんな余裕のない家も多く、「知識の格差」が起きてしまっているという。
両江道の情報筋も、家の経済力によって学習進度が異なるとし、経済的な格差が知識の格差に直結する状態となり、最近ますますひどくなっていると述べた。親たちは「教師の生活に少しは気を使ってほしい」と不満でいっぱいだが、特に解決方法はない。
なお、「文盲退治」に成功したと豪語した北朝鮮だが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の時代に、学校に通えず、字が読めない若い人も少なくない。
(参考記事:世界最高の識字率100%を誇る北朝鮮が識字教育に必死)