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韓国統一省は今月6日、北朝鮮社会の実態を探るため、6300人あまりの脱北者に行った調査の報告書を公表した。その結果からは、金正恩総書記が権力を継いでから、世襲に否定的な見方が増えていることが浮き彫りになっている。

報告書によると、金正恩氏が権力を継承した2011年以降、故・金日成主席直系の「白頭血統」が権力を世襲することについて否定的にみる脱北者が増加。2010年までは世襲に否定的な脱北者は3割ほどだったのが、2016年から2020年の間に脱北した人では54.9%に達したという。

こうした内容を眺めていて思い浮かんだのが、金正恩氏の恐怖政治における「過剰気味な演出」だ。金日成氏も父の金正日総書記も冷酷な独裁者だったが、金正恩氏はタイプが違う。

たとえば、こんなことがあった。2014年10月のある日の出来事である。

その日、平壌市南部にある力浦(リョクポ)区域の河川敷には、多数の住民が集まっていた。軍需物資を横領して逮捕された将校と、その妻である30代女性の公開処刑が予告されていたためだ。

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2人は猿ぐつわを噛まされ、黒い布で目隠しされた状態で、杭に縛り付けられていた。軍の検察官と裁判官が判決を読み上げたのに続き、射手を務める兵士たちが位置に着いた。銃声が鳴り響き、刑が執行された。

ところが妻はしばらく後、病院のベッドの上で意識を取り戻した。軍当局者が妻に説明したところでは、夫の刑は予定通り執行されたものの、現場に伝えられた緊急指令により、妻の刑執行は撤回されたのだという。

妻は当時、妊娠4カ月だった。それを知った金正恩氏が「母親の罪を新たに生まれる生命にまで問うのはわが党の人徳政治に反する」として、執行中止を命じたのだという。

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金正恩氏が、執行直前で中止命令を出したとされるエピソードは、ほかにもいくつかある。公開での刑執行が、恐怖政治における究極の「残酷ショー」であることを知り抜いたうえで、それを自らの慈悲深さを演出し、人民の支持を取り付けるものとして利用しているのだ。

実際、金正恩氏が期待した通り、北朝鮮はこの話で国中が持ちきりになったという。

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ちなみに、妻は犯した罪を完全に許されたわけではなかった。翌年に出産を終えるや、当局に再逮捕され、無期懲役を言い渡された。