中国の春秋時代の戦略家の孫子は「敵と味方の実情をよく比較・検討した後、勝算がある時に戦えば、百回戦っても決して危険ではない(知彼知己百?不殆)」との言葉を残している。そして「敵の実情を知らないまま味方の戦力だけを知って戦えば、勝敗の確率は半々である(不知彼而知己一?一?)」と述べている。戦争において敵の実情を正確に把握することは非常に重要である。
しかし、韓国の歴史を振り返ると、敵の実情の把握の重要性に対する認識が不足した為、敵の侵略によって国土が荒廃し、国民が莫大な人的・経済的損失を被った経験が一度や二度ではない。特に壬辰倭乱と朝鮮戦争の事例だけを見ても、韓国がいかに対外情勢に暗く、安保意識が低いかは明白である。厄介なのは、現在の対外情勢認識と安保意識が改善したとは言えないからである。
まず、壬辰倭乱のケースでは、朝鮮は1590年に日本に通信使を派遣したが、翌年に帰国した通信使一行は日本の朝鮮侵略に対して2つの異なる報告を行なっている。ファン・ユンギルは日本がすぐに侵略すると報告したが、キム.ソンCルはその様な危険性は全くないと報告している。
朝鮮王朝はこの異なる報告を冷静的に評価せず、希望的観測からキム・ソンCルの報告を鵜呑みにし、各道に戦争準備を指令しなかった。
さらに、オ・オクリョンが別ルートから明を征服する為に朝鮮に出兵するとの情報を得たが、朝鮮王朝はオを免職させた。その結果、1592年に日本が朝鮮を侵入し、多くの民が無惨に殺戮され、7年に及ぶ戦争によって国土が荒廃した。正確な被害を把握することは難しいが、全人口の1/4〜1/3が殺戮され、経済が100年は後退したと言われている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面壬辰倭乱は、敵の実情を正確に把握出来ずに国家の運命と国民の生命を危険にさらした代表的な事例である。しかし、朝鮮はその後も日本の情勢把握努力を怠り、20世紀初頭には日本の植民地に転落した。1950年に勃発した朝鮮戦争は、依然として外部情勢に無知な井の中の蛙である事を再確認させてくれた。
朝鮮戦争が勃発する約6ヶ月前の1949年12月27日、陸軍本部情報局では朴正煕、金鍾泌、イ・ヨングンの主導によって年末の総合報告を作成し、北朝鮮の南侵の可能性について詳細な報告を行った。しかし、この報告を政府と軍首脳部は深刻に受け止めなかった。その結果、北朝鮮軍が攻撃を行う15日前の1950年6月10日に人事異動が電撃的に行われ、前方師団長と陸軍本部の指揮部の大多数が入れ替えられ、戦争勃発当時は所属部隊の掌握と任務の把握も出来ていない状態だった。
さらに、戦争勃発直前の6月23日24時に韓国軍は、6月11日16時から維持されていた非常警戒命令「作戦命令第78号」を解除している。そして全兵力の1/3は24日未明(土曜日)から休日、外出を行った。北朝鮮軍が南侵を開始した際に、韓国軍は無防備状態で大きな打撃を受け、戦争勃発3日後にはソウルが占領される事態となった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面朝鮮戦争が勃発直前の韓国軍首脳部の一部は「朝はソウルで、昼食は平壌で、夕方は新義州で」という発言を行い、実情と乖離した対北優越感を流布させた。戦争勃発直後に国会に出席したシン・ソンm走h長官とチェ・ビョンドク陸軍総参謀長官は「もし攻勢を行えば、1週間以内に平壌を奪還する自信がある」と報告するなど、このような大言壮語は韓国軍の実際の戦争遂行能力と格段に乖離していた。このような事実は、政府と軍首脳部が敵の実情と味方の戦力を正確に把握出来ていなかった事に起因し、国家安保が非常に深刻な危機に陥るという事を如実に示している。
現在の韓国は1950年と比べると相対的に強化された対北情報力を持っているが、依然として北の攻撃力とシステムの運用方法の情報は非常に限られている。2010年3月26日の天安艦事件では、韓国政府は沈没後、しばらくの間は原因を把握出来なかった。その結果、北の魚雷攻撃があったという疑惑について、政府高位当局者が「それは憶測ではないだろうか。船を引き上げて実物を確認すれば、明らかになるだろう」と否定的な見解を述べる状況が発生していた。
同年4月に国防部は、天安艦沈没の前後に北朝鮮のピバ岬からサンオ級(300t級)潜水艦2台が起動したと発表したが、民軍合同調査団は5月20日に調査結果を発表し、天安艦攻撃にはヨノ級(130t級)潜水艇が動員されたと思われると発表した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面韓国政府は、北朝鮮の攻撃力と装備に対して非常に限られた情報力と対処能力を持っているにもかかわらず、2008年8月14日に金正日が倒れた以降、米間軍事当局は北朝鮮で急変事態が発生するなら、韓国軍は米軍と共に国連軍の一員として「北朝鮮自由化プログラム」に参加し、平壌などの北朝鮮の主要都市の占領、北朝鮮人民軍の武装解除、北朝鮮住民の一時的な救済と必要不可欠な公共サービスの提供などの民事業務を遂行することを主な内容とする「作戦計画5029」を具体化する作業に没頭した。
朝鮮戦争勃発前に軍部が北朝鮮の戦力を過小評価し、韓国軍の戦力を過大評価した様に、北朝鮮体制の耐久力と人民軍の抵抗力や抑止力を、非現実的に評価しているといえる。
北朝鮮は、1990年代中盤以降の連続的な自然災害によって数百万人が餓死し、大量脱北が発生したが、この当時、韓国軍と米軍が介入する余地は全くなかった。今後、この様な大量飢餓事態が発生する可能性は高くないが、この様な事態が再燃したとしても、北朝鮮軍が核やミサイルなどの大量破壊兵器、首都圏に大きな被害を与える長射程砲を保有しているため、韓国軍と米軍が軍事的に介入できる余地はほとんどない。作戦計画5029が想定している「戦争以外の状況での軍事的介入」論理は、貧しく武力が弱い第三世界の一部国家に限定される理論である。
米韓の北朝鮮の急変事態論に最も辛辣な批判を行った専門家は、おそらく黄長ヨプ・元朝鮮労働党中央委員会書記だろう。同氏は「一部の人は、北の独裁体制が崩壊すると大きな混乱状態に到達するというが、これは詭弁の中でも最高の詭弁。金正日が死亡しても、金正日の側近によって構築された体制がであり、同じ船に乗っている状況であるため、内乱や無政府状態には絶対に行かないだろう」と話している。
国内の多数の専門家は、金正日を北朝鮮体制と同一視する乏しい見解によて北を眺めながら、金正日が死亡すれば北朝鮮体制が崩れるという希望的な展望を提示した。しかし、金正日が北朝鮮の絶対権力者だったのは明らかだが、金正日の周辺に北を導いていく重要なエリートグループがあり、党と軍隊、公安機関がエリートと住民をしっかりと制御しているため、金正日の突然の死亡にもかかわらず、黄元書記が述べたように急変事態や意味のある政治的な混乱の兆候すら浮黷ネかった。
北朝鮮の独裁体制の生存、攻撃能力に対する現実離れした過小評価にも劣らない程に、私たちの対北認識で発見される重要な問題は、北の権力体系を正確に把握できていないということだ。今後、詳しく述べる機会があるだろうが、韓国社会の中で多くの専門家は、北朝鮮の対外用文書である憲法に基づき、国防委員会を最高権力機関とみなしている。しかし、北朝鮮は、5大主要権力機関の中で党の最高意思機関である党中央委員会と党中央軍事委員会を一番に、その次に国家機関である国防委員会、最高人民会議常任委員会、内閣の順で順序付けている。国防委員会は国家機関の中では最も高い地位を占めているが、党中央委員会や党中央軍事委員会と比べると、権力序列は低い。
北朝鮮の主な政策決定が党中央委員会書記局を通じて行われるということは、黄元書記の証言によって伝えられている。しかし、国防委員会委員の中で党中央委員会書記職を兼任している人物は誰もいない。そして、国防委員会は北朝鮮人民軍を指揮している金正恩最高司令官も、金正恩の指示下で軍令権を行使している李英鎬総参謀長、党中央軍事委員職を兼任している陸・海・空軍司令官の誰も入っていない。それにもかかわらず、国防部が発刊する国防白書の北朝鮮の軍事指揮機関図では、国防委員会が人民軍を指揮しているとの偽りの事実を記載している。
金正日の軍現地指導は国防委員長の資格ではなく、常に最高司令官名義で行われ、金正恩の場合も最高司令官の名義で行われている。そして軍への領導体系と関連して「最高司令官の唯一的領導体系」を強調してきた。国防委員長の唯一的領導体系を強調したことは一度もない。それにもかかわらず、大多数の専門家だけでなく、戦争が勃発すれば北朝鮮と戦わなければなら韓国・国防部すら、北朝鮮の国防委員会委員長が「国家の一切の武力の指揮統率」という憲法上の文言を素直に受け入れ、国防委員会が軍を指揮しているかのように判断していることは、非常に憂慮すべきことに違いない。
北の時代錯誤的な3代権力世襲の進行過程に対する韓国社会の判断能力にも、深刻な問題点が発見される。2010年9月の朝鮮労働党代表者会の開催前まで、進歩、保守を問わず多くの専門家らは北朝鮮の対外的な宣伝を受け入れ、金正恩を後継者として指名した事実を「誤報」や「小説」と断定した。党代表者の開催直前まで国内外の多くの専門家らは、金正恩後継体制構築の進展状況を過小評価し、金正恩が党代表者会で公式的に登場する可能性を非常に懐疑的に評価した。しかし、このような予想を覆して金正恩は党代表者会で封荘艪ノ登場し、北朝鮮体制のナンバー2であることを誇示した。
金正日の死亡後、金正恩が実質的なナンバー1となったが、国際社会と韓国社会の一部では、姑母夫である張成沢国防委員会副委員長が金正恩の政治的運命を左右する摂政政治を主張している。北朝鮮の現状に対する綿密かつ詳細な分析に基づいた答えではなく、金正恩の年齢と経験に対する漠然とした先入観だけで結論付けている。
これに加えて、韓国社会は北朝鮮体制の君主制的スターリン主義体制の性格を十分に理解していないなど、対北認識で多くの限界を露呈している。したがって、筆者は今後、デイリーNKのコラムでこのような問題を一つ一つ指摘し、韓国を中心とした考え方や北朝鮮を中心とした考え方、希望的思考を超えて、北の政治と権力の実像を深く分析し、合理的で現実性のある対北戦略を模索しようとする。